「東京労働局はソフトハウスに誤解されている」。こう語るのは、東京労働局の亀島哲 需給調整事業部 部長。企業の不法労働行為を取り締まる東京労働局が昨年10月に適正化キャンペーンを実施したところ、一部のソフトハウスの経営者などが「当局はIT業界の実態も知らずに、人月契約を問題視している」と反発したことに対するコメントだ。

 東京労働局は、事実上の派遣形態にもかかわらず請負契約を結ぶ「偽装請負」や、中間搾取を生む「多重請負」を問題視。昨年10月から11月にかけて、製造、物流、サービス業などに対して適正化キャンペーンを実施した。こうした契約形態をとることが多いIT業界も当然、対象になった。キャンペーン期間中、東京労働局はインテグレータやソフトハウスに実地指導・監督も行った。

 こうした活動が、IT業界の一部では「労働局が人月契約を取り締まろうとしている」と受け止められた。だが、亀島部長は「インテグレータに対し、人月による契約などを問題視したことはない。弁護士などと同じくIT業界では、時間で対価を算定しなければ事実上契約ができないことは理解している」と反論する。

 だが、東京労働局の真意が正しくIT業界に伝わりきらなかったことは事実。そこで、同局は今年10月1日から実施する同様の適正化キャンペーンでは、「誤解を解きたい」と、セミナーなどの活動を重視する。

 具体的にはIT業界に関連するセミナーを10月18日、11月14日に開催する。このほか、労働者に対する街頭労働相談を7回にわたって実施する。さらに今年は東京都だけでなく、一都六県の労働局が連携して活動を繰り広げる。

 一方で実地指導・監督も継続する。前年度はキャンペーン期間中に労働者などから入手した情報から、125の事業所に対して指導・監督を実施したが、今年は「キャンペーン終了後の年末・年始に指導・監督を多く実施することになるだろう」(亀島部長)という。

 当然のことだが、指導・監督で労働基準法違反や労働者派遣法違反が発覚した場合には、取引停止にまで事態が及ぶ。そうならないためにも亀島部長は「まずは相談に来て欲しい」と語る。相談だけでは、現場証拠を押さえているわけではないので即座に指導・監督の対象にはならない。「相談に行って違反が発覚したらすぐに指導に入られるのではないかと思われているかもしれないが、それも誤解だ。労働者に告発されるリスクのほうがよっぽど大きい」。