総務省は今年中にも通信業界の方向性を見極めるビジョン策定を始める。通信事業者や機器メーカー,その他関連する産業へ広く参加を求め,「今後の通信業界をとりまく産業のビジョンを策定する」(総合通信基盤局事業政策課の鈴木茂樹課長)。

 策定にあたり,NTTグループ各社の位置付けなど通信事業者への規制のありかたは「ごく一部であり,メインではない。もっと広い産業論を話し合う」(鈴木課長)としている。例えば,通信事業者の収益構造や,光ファイバや無線などの新技術を利用してどういった企業が参入し,市場構造がどのように変化するのかなどを議論する。また,日本の通信機器メーカーの競争力強化についても取り上げる。現在,日本国内の通信機器市場では基幹ルーターなど多くの分野で海外メーカーの攻勢にあっている。その一方で,国内メーカーの携帯電話端末などは機能は高いものの,海外への売り込みには成功していない。

 総務省がこうしたビジョンの策定に乗り出す背景には,従来の電話制度に関する行政の区切りがついたことがある。電話制度は,2007年度までの当面の接続料が決定し,従来型の固定電話の収支を支えるユニバーサル・サービス基金の制度も整いつつある。また,政府のNTT株放出が終了し,20年間をかけて民営化にも区切りがついた。11月にはNTTグループが今後の経営戦略を発表する。この場では,グループで展開する新サービスや事業の再編などが明らかにされる見通し。

 総務省の今回の取り組みは,こうしたNTTグループの戦略に何らかの影響を与えそうだ。NTTの売り上げは連結で年間約10兆円。NTTグループそのものが通信産業ともいえるからだ。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション