写真 KDDIの小野寺正社長
写真 KDDIの小野寺正社長
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 7月末に突如表面化し,通信業界を騒然とさせた東京電力とKDDIの提携交渉。9月末を迎え,いよいよ最終局面に突入している。

 無事に合意に至った場合,正式発表の“Xデー”は9月最終週から10月上旬になるというのが交渉現場に近い関係者の一致した見方である。ただ,9月は終わりに近づいている状況からみると,10月までずれ込む可能性が高まっている。

 すんなりと合意するかどうかも最後の最後まで予断を許さない状況にあるようだ。日本テレコムの買収や,パワードコムとインターネットイニシアティブ(IIJ)の統合など,通信業界で東電がかかわった合併交渉には,いくつも実現しなかったものがあるからだ。

 9月21日の定例会見に登場し,提携に関する発言に注目が集まったKDDIの小野寺正社長は,「新聞報道後に公式見解を出した通り。(東電と)話をしているのは事実。しかし今は,それ以上のことを申し上げる段階にない」と答えるにとどまっている(写真)。

1月1日付けのパワードコム合併が先に決定

 東電とKDDIは今回の提携交渉の最終合意に至る時期として,9月下旬を目指していた。というのも,話し合いの中で2006年1月1日付けでパワードコムをKDDIに合併させるスケジュールが先に決定していたから。そのスケジュールで合併までに株主総会などの作業をすべて終わらせるには,9月下旬から10月上旬にかけての合意がギリギリのタイミングという。それ以上に遅くなると,合併の時期をずらさなければならない可能性が高まる。

 実際,合併にかかわる新聞報道の後,パワードコム社内では「東電とKDDIの提携交渉は9月中に方向感が出る」という趣旨の説明が,中根滋社長から全社員にメールで送られている。

 関係者の話によると,東電は“不退転の決意”で今回の提携交渉に臨んでおり,合意の可能性は高いという。具体的には明らかにされていないが,KDDIがパワードコムを株式交換で吸収合併し,東電が保有するアクセス系の光ファイバの共同利用することなどで条件交渉が進められてきた。ただ,話し合いが大詰めを迎える中で最後の焦点となっている事項がある。

 それが,パワードコムの資産評価である。

 両社の思惑が“パワードコムの価値”を巡りシビアに激突。資産評価の段階で折り合いがつかなかったため,KDDI側からの具体的な金額提示が当初の予定から大幅に遅れてしまったようだ。

 東電には,パワードコムの評価額を900億円に近付けてなければならない理由がある。この金額とあまりにかけ離れた安い評価額でKDDIと合意すると,東電は株主代表訴訟などのリスクを抱えることになるからだ。

 東電は2004年秋,赤字が続いていたパワードコム再建のために約900億円を増資して同社を子会社化したばかり。それ以前から,通信事業への投資を続けてきた経緯もある。そのため,「東電は少なくとも1年前の増資分である約900億円を回収できる金額にパワードコムの評価を近付けられるよう必死に交渉するはず」(ある電力会社幹部)との推測がある。

KDDIの狙いは東京電力の光ファイバ

 一方のKDDIは,パワードコムをできるだけ安く手に入れたい。提携の最大の狙いはパワードコムではなく,東電の光アクセス回線だからだ。「KDDIがパワードコムを取り込むのは,東電の光ファイバを手に入れるための足がかりに過ぎない」と見るアナリストや業界関係者は少なくない。

 KDDIは東電との提携により,FTTH(fiber to the home)と携帯電話を組み合わせた本格的なFMC(Fixed Mobile Convergence)サービスの提供をもくろむ。従来から使っているNTT東西地域会社のダーク・ファイバに加え,東電の光ファイバを適材適所で併用しながら使う戦略のようだ。

 「料金競争が激しく,薄利多売になりつつある法人向け固定通信事業がメインのパワードコムを吸収するメリットはあまりない」という声は,KDDI内部からも出ている。KDDIの固定通信部門は減収減益が続く。ここにパワードコムを吸収すれば,固定通信の設備や人員はなおさら過剰になる。

 そのため,「いくら東電の光アクセスが手に入るかもしれないとはいえ,KDDIがパワードコムのために900億円も払うとは思えない」というのが大勢の見方。合併の場合はこれ以外に,パワードコムが抱える約1500億円の有利子負債も引き受けなくてはならない。

 売る側ができるだけ高く売りたがり,買う側はできるだけ安く買おうとするのは世の常。しかし今回の交渉は,どちらも金額に関して引くに引けない事情を持つ。 今回の提携が実現した場合,両者がどのような落としどころを用意するのか,合意内容が見ものである。

(宗像 誠之=日経コミュニケーション

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