写真 イー・アクセスの千本倖生会長兼最高経営責任者(撮影:小林 伸)
写真 イー・アクセスの千本倖生会長兼最高経営責任者(撮影:小林 伸)
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 携帯電話事業の参入へ,単独で周波数割り当てを申請したソフトバンクとは対照的に,他の事業者はパートナとの連携を視野に入れている。単独での参入は資金的に苦しく,リスクも大きいためだ。

ドコモとのローミングを模索するイー・アクセス

 ソフトバンクと同じく1.7GHz帯での第3世代携帯電話(3G)事業参入を狙うイー・アクセスは,データ通信を主体としたサービスを計画している。千本倖生会長兼CEO(最高経営責任者)は「免許の割り当てを受けた後,2006年度内にもサービス開始する」と公言(写真)。加入者の増加に合わせて,音声サービスを提供することも視野に入れている。

 ただし,携帯電話事業参入に向けたアプローチはソフトバンクとは異なる。それはイー・アクセスが,参入時の有力なパートナとしてNTTドコモと交渉している点だ。早期に全国エリアでのサービス展開を果たすため,一部の地域で時限的にNTTドコモの設備を借り受けるローミングの道を模索している。

 NTTドコモとのローミングが実現すれば,イー・アクセスは開始当初から全国エリアでのサービスをユーザーに提供できる。事業計画の一つとして表明しているMVNO(仮想移動体通信事業者)ビジネスを展開する際,インフラを貸し出す事業者に「サービス開始から全国で使える」と訴求できるメリットは大きい。イー・アクセスはNTTドコモとの交渉について「コメントできない」としているが,総務省への意見書でもかねてから,「既存事業者とのローミングが必要」と主張している。

 NTTドコモの幹部は「イー・アクセスとローミングの勉強会を実施しているのは事実」と認める。ローミングした場合の設備をどう設置するかなど,具体的なシステム構成なども議題に上っているようだ。

 もっともNTTドコモの基本スタンスは,「ローミングは全く当社のメリットにならない。新規参入組も自分たちでリスクをとって設備投資をすべき」(NTTドコモ幹部)というもの。「すべてはイー・アクセスが免許を取ってからの交渉になる」(同)。

決まらないアイピーモバイルの提携相手

 一方,2GHz帯を使った携帯電話事業参入を目指すアイピーモバイルは,今もなおパートナ探しに奔走している。

 アイピーモバイルが目指すのは,TD-CDMA(time division-code division multiple access)と呼ぶ3G携帯電話方式を利用したデータ通信サービス。4年前から同方式の実用化を目指し,総務省に割り当てを働きかけてきた。2003年から2005年にかけては,東京都内でNTTコミュニケーションズ(NTTコム)と共同実験を実施した。

 だがベンチャー企業のアイピーモバイルにとって,新規参入の最大のハードルは自身の財務体力にある。資本金4億5000万円,20人弱の社員しかいないアイピーモバイル単独では,総務省が示す「事業を継続できる財務基盤を有すること」という基準を満たすことは難しい。このためアイピーモバイルは当初,インターネットイニシアティブ(IIJ)や東京電力,楽天らから出資を受ける計画を詰めていた。

 ところが,IIJが6月に予定していた東京証券取引所マザーズへの上場を急きょ中止するなど,出資を検討していた各社の状況が急激に変化。アイピーモバイルの計画は大幅な修整を余儀なくされている。同社は「コメントできない」(竹内一斉取締役)としているものの,現在,米国の大手通信事業者などと交渉を進めている模様だ。

 だが仮に9月末までにパートナが決まらなければ,2GHz帯の割り当て議論は白紙に戻り,再検討となる公算が高い。実際,総務省は2GHz帯の割り当てについて,「要件を満たす申請者が存在しない場合は,IMT-2000以外のシステム導入も含めて,より幅広い観点から検討を行う」としている。

 仮に再検討となれば,2GHz帯を狙っている他の事業者にも参入の機会が訪れる。現在その座を狙っているのは,ライブドアとウィルコムの2社だ。この2社には,東京電力子会社のパワードコムが接触していた。

 通信事業の中で携帯電話は収益性が高い事業として,様々な事業者が虎視眈々と参入の糸口を探っている。検討が白紙に戻った場合は,再び事業者全体を巻き込み周波数獲得に向けた大きな陣取り合戦になる可能性が高い。その全容は,総務省が審査結果を公表する年内にも明らかになる。

お詫びと訂正)掲載時に「ジャスダック証券取引所」としておりましたが,正しくは「東京証券取引所マザーズ」です。お詫びして訂正致します。20050927

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