パソコンの未来像を探る連載の最終回。第1回第2回第3回に引き続き、メーカー各社のパソコン担当トップに話を聞く。今回は、日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループ インターネットプラットフォーム事業部長 金子徹氏、シャープ 情報通信事業本部 液晶IT事業部長 高橋正光氏(次ページ)のインタビューをお届けする。

「『TVも見られるPC』から『PCもできるTV』へ」

日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループ インターネットプラットフォーム事業部長 金子徹氏


日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループ インターネットプラットフォーム事業部長 金子徹氏
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─コンシューマー向け市場の変化をどうとらえているか。

金子 ハイビジョン映像とブロードバンドの高速通信が共に利用できる環境になってきたとき、どういう製品分野にフォーカスしていくか。日立ではデジタル家電時代を見据えて、「次世代三種の神器」というコンセプトを打ち出している。薄型テレビ、ハードディスク/DVD機器、そしてブロードバンド対応パソコンだ。この3つをつなぎ合わせていくことで新しい価値や新しいエンタテインメントを創造しようとしている。

 テレビはブラウン管から薄型へ、録画機器はテープからディスクへ、アナログからデジタルへと、この2つの製品分野は大きな転換をすでに終えている。

 ではパソコンはどうか。三種の神器の中では一番、変化が遅れていた。ブロードバンド時代に対応したパソコンのあり方を考えると、やはり家庭でのパソコンの利用方法が変わってくるという前提に立つべきだ。そのうえで次世代のパソコンが向かう方向を考えてきた。

 環境の変化として、ブロードバンド、ハイビジョン、さらに将来には携帯電話を利用したデータ通信のブロードバンド化、料金定額化も見えている。放送系、ネット系、ワイヤレス系すべてがブロードバンドになり、その上をコンテンツが流れ始めるわけだ。そうなると、新しい製品が求められてくるし、新しい楽しみ方が生まれる。

─テレビとパソコン、この二者をどう位置づけるか。多くのコンシューマー向けパソコンがテレビ機能を競っている。

金子 置かれる場所を考えると、三種の神器のうち、薄型テレビ、録画機器はリビング。家族での共有物になる。一方、パソコンはパーソナルな存在だ。パーソナルにテレビもブロードバンドも録画も楽しむ、もちろん、従来通りのパソコンとしての使い方もするものになる。

 パソコンはパーソナルに利用することを前提に、デジタル家電の機能の融合化を進める基盤になるものと位置づけている。メールをしたり、仕事をしたりするだけじゃなくて、映像も同時に楽しめる装置と打ち出していこうということだ。

─日立の薄型テレビである「Wooo」とパソコンの「Prius」、この2つのブランドは今後もすみわけていくのか。例えば、大画面液晶ディスプレイを搭載したパソコンを「Wooo」ブランドで出していくことはないのか。

 Woooはテレビであり、ハードディスク録画機のブランドとして強い。Priusはやはりパソコンだ。それを一緒にしたら顧客が混乱するだろう。もし、将来、テレビとパソコンの境界が消えるようにパソコンに対するとらえ方が変わってきたら、ブランドとして1つにすることも考えられるが、今はそういうつもりはない。

─大画面液晶ディスプレイ搭載のパソコンをリビングにおくという市場は存在すると思うか。

 難しいところだ。他社では32型ディスプレイを搭載したモデルを用意しているが、売れているという話もあれば、苦戦しているという話もある。もちろん、欲しいと思う人はいるだろう。

 メーカーの戦略として考えれば、どこを狙うかということに尽きる。日立はリビング用にハイビジョンが映せるテレビを持っている。そして、パーソナル用にはパソコンを提供していく。ラインとして2つ持っているということだ。

─パソコンのテレビ機能の品質は向上していると思うか。

 従来は、「パソコンでテレビが見られる」という視点に立っていた。今はパソコンの開発をやっているメンバーのマインドを変えさせるために、「パソコンができるテレビを作ろう」と訴えている。パソコンにこだわりすぎて、テレビ機能をオマケととらえていては困る時代になっている。

 日立ではこの秋冬モデルの中でデスクトップのハイエンドモデル「Prius Deck」、普及機モデル「Prius Air」で新しい取り組みを行っている。もうテレビには負けないといえる品質のものができた。

 Deckはインターネット経由で受け取ったハイビジョンのコンテンツを、ハイビジョンで見られるというのが1つコンセプトになっている。付属のディスプレイだけでなく、大型テレビとの接続も行えるようHDMIインタフェースも用意した。Airは普及機タイプで初めて地上デジタル放送の受信を可能にした。Deck、Air共に、大画面に映し出しても全く問題ないクオリティのハイビジョン画像を映し出せる。ハードウエアで処理している点が最大の特徴だ。

 他社では入力されたハイビジョン画像は一度、パソコン内でスタンダードな画質に落とされてしまう。この部分をソフトを使ってハイビジョン画像として映し出せるよう処理している。この方法ではCPUの演算処理プロセスに何かほかの要素が入ってくると、画質が乱れてしまう問題もある。ハードウエアでの処理ならこういう問題は起きない。

 これらの機能の実現には日立のハイビジョンテレビの開発に投下してきた膨大な投資が生きている。今年5月からパソコンの開発チームとテレビの開発チームが同じ横浜の研究所内に拠点を置くことになった。今回の秋冬モデル用に新たに開発した地上デジタル放送専用チューナーボードや、画質向上のための技術開発にはテレビのノウハウが生きた。拠点の移動は互いのノウハウが共有しあえるようにという狙いだったが、期待した以上に効果が上がっている。

─テレビ機能が強化されたパソコンは、テレビ市場をどのくらい置き換えていくと思うか。

 テレビは国内に1億台あるといわれている。そのうち、家庭のリビングにあるのは2000万~3000万台。残りはほぼ個人用と考えていいだろう。それが6000万~7000万台。潜在的な市場はこの個人用テレビだが、このうち、どれくらいがパソコンで置き換えられるのか。ちょっと想像が付かない。

 ただ、地上デジタル放送の受信エリアは広がっていく。2011年にはアナログ放送が終了する。インフラが変わると(テレビ機能が強化されたパソコンを巡る)状況は変わってくるだろう。