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 「近い将来、ITアウトソーシング拠点は、中国が世界最大になる」。中国でITベンダー「I.T.ユナイテッド」を経営する、シリル・エルトシンジャーCEO(最高経営責任者)はこう断言する。

 世界のITアウトソーシング先としては、現在はインドが最も有名。安い人件費と英語を公用語としていることを売りに、欧米企業からシステムのオフショア開発や保守・運用を請け負っている。アウトソーシング先としては、中国よりもインドの方が優れているのではないかとの見方があるが、エルトシンジャーCEOは「それは大きな誤り」と反論する。

 「言葉の面では、オフショア拠点で働くエンジニアは、顧客の言語を話せる必要はない。ブリッジSEが顧客企業とのコミュニケーションを交わし、エンジニアにきちんと要件を説明できれば問題ないからだ。実際、インドで働くエンジニアは、英語をうまく話せない人が多い」(エルトシンジャーCEO)。

 人件費の面でも、「インドは仕事と人材の需給関係から上昇気流にあるが、毎年多くの若手がIT業界に入ってくる中国は、まだそれほどでもない」(同)という。「中国では、IT業界に入ってくる大卒新人は、2003年で8万人だったが、2004年は19万人にまで増加している」。

 さらに、「中国のエンジニアはインドに比べて、品質に対する意識が高い。技術力も伸びている。道路をはじめとする社会インフラも、インドより発展している。米国の調査でも、2015年には中国がインドを抜いて、世界世界のアウトソーシング拠点になるとの予測がある」と、自信を深める。

 I.T.ユナイテッドは1998年の設立当初から、中国企業にしては珍しくITアウトソーシングを事業の中核に据えてきた。中国のIT企業は、国内向けにパッケージ・ソフトを作ったり、日本向けにプログラム開発だけを手掛けるところが多い。現在、I.T.ユナイテッドは、「アウトソーシングの提供ベンダーとしては、中国でトップ10に入っている」。

 スイス出身のエルトシンジャーCEOがトップを務めるという点でも、I.T.ユナイテッドは中国IT企業では異色だ。エルトシンジャーCEOは米国の大学を卒業してから、米EDSに8年間勤務した経験を持つ。EDS在籍時に、仕事で中国を訪れ、そこで「優秀なエンジニアがたくさんいることに心を打たれ、中国での起業を決意した」。

 大学で哲学や心理学を学び、スイスでは軍隊で中尉を務めた経験もあるエルトシンジャーCEOは、「オフショア開発を成功させる最大のカギは、ブリッジSEのコミュニケーション能力」との考えで、さまざまなキャリアから学んだプロジェクトマネジメントや人心掌握術を指南する。

 北京に本社を構え、西安と上海に開発センターを抱えるI.T.ユナイテッドの社員数は、現在200人。アウトソーシング需要の高まりを受け「2009年までには、2000人まで増やしたい」(エルトシンジャーCEO)。今年度の売上高は、1000万米ドル(約10億1000万円)の見込み。日本向けの事業規模は全体の2~3%だが、今年中には日本に拠点を構えるなど、日本向けのアウトソーシング事業も強化していく。