米国南部を襲った大型ハリケーン「カトリーナ」で被災し,遠隔地に移った学童の支援活動に,Wikiが大変活躍している。それらの子供たちに,学校へ通うのに使うリュックサック(バックパック)を送ろうというボランティア活動で,活動開始から1カ月で10万個のバックパックが集まる見通しだという。

 この学童支援プロジェクトは,Project Backpackというものである(該当サイト)。その中のOpen Creation Website(該当サイト)はseedwiki(該当サイト)というWiki提供サイトで実現されている。

 Project BackpackのコーディネーターであるSteve Kantor氏によると,「Jackie(14歳),Melissa(11歳),Jenna(8歳)の3人の娘がこのProject Backpackを考え出しました。米国では子供たちは学校へ通うのにバックパックを背負って行きます。娘たちは,遠隔地に避難している子供が一番必要なのはバックパックだと気づき,このプロジェクトのサイトを始めたのが9月1日です。支援者は,バックパックに教科書などを詰めて送るわけです。Open Creation Websiteの訪問者数は1日目に3人,3日目に229,4日目に2900,5日目に5800,6日目に7700,7日目に1万と飛躍的に増えました。そして今日(米国9月10日)午後6時30分(東部時間)からのCNNの番組に取り上げられました。さらに,ホワイト・ハウスのスピーチ・ライターの方から先ほど電話があり,Project Backpackについて大統領の演説に引用してもよいかの問い合わせがありました。今月末までに10万個のバックパックを集め,子供たちに配ることができるでしょう」
 Wikiでは,何を詰めるか,どこに送るかなど支援に必要な情報が書かれている。非常にシンプルなページであり,組織というものは存在しない。個々のボランティアが活動し,ボランティアの相互連絡をWikiで行っている。同氏によると,「無料で利用できるWikiを探したらseedwikiを見つけることができました」とのことである。

 Steve Kantor氏によると「Wikiを使わなかったらここまで急速にProject Backpackは立ち上がらなかったでしょう」ということだ。「ブログは1対多のコミュニケーションが基本で,Wikiは多対多,1対多,多対1が可能だからです。私が強調したいのは,Wikiによって迅速に,プロジェクトの組織化が可能だったということです」。彼はwww.vocus.comの"Keep In Touch"という政治運動向けソフトウエアを開発した会社のCEO(最高経営責任者)をやっていた。コミュニティ・ソフトウエアの開発経験がある彼は,Wikiを初めて使ってみてその威力に驚いているということだ。

 このようなボランティア活動におけるWikiの効用は大きいものがあり,わが国の大規模災害発生時の支援活動にも有用であろう。

 なお,Wikiはホームページを非常に容易に作成し,だれもが内容を編集できるもので,Wikipediaに使われている技術だ。Wikiのページを作るには,Officeのような感覚でページを作っていけるWikiソフトウエアに付属のエディタを使う。最近話題のブログとの違いは次の通りである。

・ブログは時系列の記事が並んでおり,過去の記事はアーカイブに保管され,検索するのが困難である。Wikiはページですべての情報を一覧できるので水平的である。
・ブログの対象読者は不特定多数であるが,Wikiは限定された興味を持った読者が対象である。
・特に米国では,ブログのページ・ビュー獲得競争が過熱し,ブログ独特の言い回しや表現のために,ややもすると,内容のない文章が続く傾向がある。それに対してWikiは,仕事やコラボレーションのためのものである。

 ちなみにseedwikiでは日本語が利用できる。