パソコンの未来像を探る連載の第2回。前回に引き続き,メーカー各社のパソコン担当トップに話を聞く。今回は,ソニー VAIO事業部門長 石田佳久氏と,東芝 執行役上席常務兼PC&ネットワーク社 社長 能仲久嗣氏(次ページ)のインタビューをお届けする。

「我々にしかできない新しい世界を生み出す」


ソニー VAIO事業部門長 石田佳久氏
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石田佳久氏

ソニー VAIO事業部門長

─パソコン市場は回復基調にある。この傾向をどう分析するか。

石田 国内のコンシューマー市場については、去年はある意味、最悪だった。オリンピックや猛暑で他の製品に消費が向いてしまったことが原因という話をよく聞くが、問題は(パソコン自体が)新しさが出せていない点にあるのではないかと思う。

他社からは、AV機能を非常に強化されているものがいろいろ出てきているが、ソニー自身はもうちょっと市場をリードする必要があると思う。

 全世界的に見ると、海外は非常に好調だ。ただ、非常に安い価格帯が伸びているという点に対しては、我々は危惧を持っている。例えば、米国では、客寄せ的に499ドルのノートブックが発売されたケースがある。今までも感謝祭のシーズンなど、年に1度くらいはそういうことがあったが、ここにきて定常的にそういうローコストのものが市場に出始めた。

 また、市場でのプレーヤーも変わってきている。デル、HPや、日本でいうとNEC、富士通、東芝以外に、今までパソコンビジネスを手がけていなかった、あるいは細々としかやっていなかったようなメーカーが出始めているという印象がある。例えば、国内ではデスクトップでのイーマシンズなどだ。こういうメーカーが低価格帯の機種で台数を伸ばしている。

 もちろん、こういった機種は、基本的に、メールとインターネットができればいいという商品でしかない。ソニーとしてはこういう世界とは違う方向へ自社商品を位置づけていくつもりだ。

─どういった部分で差別化していくか。

石田 全体的な話でいうと商品に対するこだわりだ。

─テレビ機能の強化などの取り組みではソニーは先行してきた。しかし、他社が追いついてくるなかで、機能的な部分での差別化がしづらくなっているのではないか

石田 機能的な部分での差別化がしづらくなっているのは事実。
 ただし、もう1回、ソニーの中にある技術やコンテンツといった資産を見直してみると、我々にしかできないことはある。

 例えば、高解像度データを扱う技術を切り口に考えてみよう。映像を取り込む側のカメラ、ハイビジョンで記録できる小型カメラはソニーしか出していない。取り込みができるようになったなら、録ったデータをメディアに記録する、さらには家庭内で配信するというソリューションが求められるわけだ。これを出せるのはソニーしかないはず。こういったところをきちんと訴求していけばまだまだ差別化はできる。

─デジタル家電とパソコン、それぞれの役割をどう家庭内では位置づけるか

石田 今までの家電が持っていた商品としての軸は、特定の機能にあった。テレビは放送を見るための道具だし、ビデオは録画した番組やDVD、レンタルビデオを見るための道具だった。しかし、今はその商品の軸が変わりつつある。1つの商品がいろいろなことができるようになってきたからだ。

 パソコンはテレビもインターネットもDVDへの記録もできる。これと同じように、家電もどんどん専用のカテゴリーでないところまで機能が広がっている。例えば、携帯電話も当初は話すための道具だったが、そこにiモードが入り、インターネットにもつながるようになった。さらには、音楽も聴けるし、カメラもついている。いろんなことができる軸の商品が登場するようになった。これは将来的にも起こっていく。

 デジタル家電というものが家庭の中にどんどん入ってくるというのはパソコンにとって脅威ではある。なぜなら、今までパソコンでしかできなかったことがデジタル家電でできるようになっているからだ。例えば、テレビ番組をDVDに記録する用途ももともとはパソコンでしかできなかったが、今は、価格も安くなったDVD録画機で簡単にできるようになった。

 ただ、逆に考えると、パソコンというプラットフォームはそれ自体が技術的な資産だ。パソコン上で実現するいろいろな機能を、今度は家電の領域に落とし込んでいけば、きっと新しい商品カテゴリーを生み出せると考えている。

 たとえば、ホームネットワークとかデジタルホームとか数年来、言われ続けているが、まだ、本当に実現しているケースはなかなか見あたらない。でも、この市場は、もう爆発寸前じゃないかと感じる。

 ハードディスク録画機はだいぶ普及しているが、多くの人が番組を録りっ放しで、あまり見ていないという調査を見た。もし、ここに、自分が見たい番組だけをピックアップして、自分の部屋のパソコンで見たり、持ち歩けたりしたらどうか。
 現在では、そういうことが本当に簡単にできるようになっていない。ここを、解決できれば、また、新しい世界が開けるかもしれない。

 ソニーも「ルームリンク」(注:VAIOとAV機器をネットワークで接続するレシーバー)のような商品を出してはいるが、使い勝手には課題があるし、販売の仕方も機能をうまく訴求できていない。

─家庭内でのAV環境に関連した課題の解決が、ソニーが考えるパソコンの将来的な方向性か。

石田 我々はそういうことを総称して「VAIOニューワールド」と言っている。

─VAIOニューワールドのカバー範囲のイメージは。テレビなども含まれるのか。

石田 もちろん、パソコンの画面が大きくなっていくと自然とテレビに近くはなるが、VAIOが「BRAVIA」(注:ソニーのテレビの新ブランド)を作ることはない。

 今すぐに話せるものはないが、VAIOの機能の一部を切り出したものをVAIOブランドで売るという話はある。

 具体的な商品の例ではないが、イメージとしてはホームサーバーなどがわかりやすいかもしれない。

 以前はパソコンの価格が高かったから、それをAVをコントロールするためだけに使うのはもったいないと思っていた。でも、今はそういう時代ではないだろう。すでに家族が全員1台ずつパソコンを持っていたら、リビングにもう1台あってもいいかもしれない。その時、リビングに置かれるパソコンにはどういう機能が求められるのか。必ずしも、パソコンとしてのすべての機能が求められるわけではないだろう。

 VAIOには「VAIO Media」(注:外部から自宅のVAIOに接続し、放送中の番組やハードディスク内のコンテンツを視聴できるシステム)というものがあるが、知っている人は少ないし、知っていたとしても使いにくい。家庭内ネットワークにあるすべてのコンテンツを日付順に並べるといった機能があって初めてある程度、使えるという評価になると思う。こういった課題をきちんと解決していければ、リビングにもう1台おいてもいいパソコンになると思う。