「マイクロソフトは知的財産権に関して、完全にオープンだ。なぜならIT業界では、すべての企業が互いに他社のアイデアを利用して、製品や技術を開発している。われわれが、自社のすべての知的財産権をライセンス供与している目的は、業界全体を発展させることにある」。こう語るのは、米マイクロソフトで知的財産権管理を統括する、マーシャル・フェルプス副社長である。

 米マイクロソフトは2003年12月に、知的財産権に関するそれまでの方針を転換し、自社の知的財産権を他社にライセンス供与することを決定。以来、他社との間で相互にライセンス供与する(クロスライセンス)取り組みを進めてきた。この方針の下、今年6月には東芝との間で、Windows CEをベースに次世代DVDプレーヤーを開発することを柱にするクロスライセンス契約を結んだことを発表した。

 フェルプス副社長によれば、現在、3~4社の日本企業との間で、クロスライセンス契約を結ぶための交渉をしているという。「今後2年で、全世界の主要なIT企業30~40社と、クロスライセンス契約を結びたい。単に互いの知財を共有するだけでなく、信頼関係を結ぶことが最終的な目標だ」(フェルプス副社長)。マイクロソフト自身も、昨年だけで14億ドルに上る知財を、他社から購入したという。

 マイクロソフトといえば、他社から知的財産権を侵害したとして訴えられる常連である。フェルプス副社長も、「米国での訴訟件数は多すぎる。これは大きな問題だ。われわれは常に標的になる」と認める。同社は年間1億ドルを、訴訟対策に投じているという。

 一方、同社が日本のパソコン・メーカーとの間で結んでいた「特許非係争条項(NAP:non-assertion of patents)」については、「マイクロソフトがごく小さな企業で、保有する特許もわずかだった15年前に考案した条項。当時は特許侵害に関する訴訟も少なく、穏やかな時代だった」と釈明した。NAPとは、マイクロソフトが日本のパソコン・メーカーとの間でWindowsの使用許諾契約を結ぶ際に、メーカーが同社に対して特許侵害の訴訟を起こさないことなどを誓約させる条項のこと。マイクロソフトは2004年7月、日本の公正取引委員会から、NAPが独占禁止法に違反するとして、排除勧告を受けている。「既にNAPは時代錯誤な条項であり削除済み。もはや問題は起こらない」(フェルプス副社長)。