ビジネス・モデリングからアプリケーションの設計・実装・テストに至るソフトウエア開発の全工程を、一人もしくは少人数の技術者が自律的に連携しながら効率的に進める「ソフトウエア・セル生産方式」の確立を目指す研究会が発足した。名称は「アジャイル・ソフトウェアセル生産方式WG(ワーキンググループ)」。

 コンサルティング会社の一(いち)で副社長/専任コンサルタントを務める大槻繁氏が同WGのリーダーを、ソフトウエア・セル生産方式を提唱している京都高度技術研究所顧問の松本吉弘氏がコンセプトリーダを務める。このほかマイクロソフトや日本IBM、野村総合研究所などから約20人のメンバーが参加し、8月30日に第1回会合を開催した。早ければ来年をメドに「ドキュメントを日本語および英語でまとめ、世界に向けて情報を発信していく」と、松本氏は話す。

 ソフトウエア・セル生産方式は、ハードウエアのセル生産方式に対応したもので、大規模なアプリケーションを一人もしくは一人が責任を持つチームで開発するための手法や技術を指す。「開発ツールや統合開発環境が進歩したことで、開発者一人でカバーできる作業範囲は相当広がっている。この点を意識していないソフトウエア会社の管理者が多い」(松本氏)。

 この方式のベースにあるのは、1970年代に日本の大手コンピュータ・メーカーが自社のソフトウエア開発拠点で採用していた開発・マネジメント手法。このころ、日本のソフト開発拠点は「ソフトウエア・ファクトリ」と呼ばれ、その開発生産性や品質の高さが世界中の注目を集めていた。当時のノウハウを、ハードウエア分野でのセル生産手法や、動作可能なアプリケーションを超短期で開発するアジャイル開発手法、さらにマイクロソフトが提唱しているソフトウエア・ファクトリなどと組み合わせることで、新たなソフトウエア・セル生産方式の手法を確立していく。

 ソフトウエア・セル生産方式の究極の目標は、「行列ができるソフトウエア設計事務所」の実現という。建築の世界では、一級建築士や建築家は医者や弁護士に匹敵する専門職として認知されており、それぞれ自前の設計事務所を持って、みずからの責任で作業をこなしている。ソフトウエア・セル生産方式によって、ソフトウエア技術者が専門職として活躍できるようになれば、相応の待遇を受けられるようになったり、みずからの名前の付く設計事務所を持つことが可能になることにつながる。そうならないと、日本のソフトウエア開発力は向上しないし、業界はよくならない。こうした問題意識が、同WG設立の背景にある。

 同WGは、アジャイル開発手法の普及・啓もうを目的とするアジャイルプロセス協議会の中に設けられた。メンバーは現在も募集している(原則として協議会に参加していることが条件)。同協議会のWGにはこのほか、見積・契約ガイドラインWG、アジャイルマインド勉強会、ケーススタディWG、アジャイル・プロジェクト・マネジメントWGがある。