2014年2月24日から27日までスペイン・バルセロナで開催された世界最大のモバイル関連の展示会・カンファレンスである「Mobile World Congress 2014」(MWC2014)。この巨大イベントがスマートフォンの普及やM2M(マシン・ツー・マシン)の導入機運を背景に、 あらゆる産業を巻き込む広がりを見せている。エンタープライズ分野も例外ではない。ここ数年、著しく増えているのが、企業向けの製品やサービスの出展だ。

(大谷 晃司)


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 「MWCは“エコシステム”カンファレンス」。MWC2014も終盤に差し掛かった2月26日、基調講演に立った米IBMのバージニア・ロメッティCEOが語った言葉だ。ウエアラブル機器から自動車に至るまであらゆる製品やサービスをモバイルで結び付けるイベント、それがMWCである。

 ロメッティ氏はモバイル機器の普及で“爆発するデータ”に言及。その分析の重要性を語り、「コグニティブ(認知的)コンピューティング」の話題につなげつつ、AI(人工知能)や機械学習を組み合わせた質問応答システム「Watson」を紹介した。モバイルとビッグデータをきれいに1本の糸でつなげた格好だ。

 モバイル機器の普及や、M2M、IoT(モノのインターネット)によって、あらゆるモノが接続する世界が出現しつつある。MWCでは以前からこうした世界がもたらす通信量の増大に対する技術に注目が集まっていた。だが、あらゆるモノがつながる世界では、通信量だけでなく、膨大なデータも同時に生み出される。これをどう処理し、どう分析して、収益や新規事業を創り出すかといった観点がMWCのテーマの一つとして浮上してきた。

 この分野で先行するのは、Watsonを擁するIBMのようなIT企業であり、MWC2014のもう一人の“顔”だったマーク・ザッカーバーグCEO率いる米フェイスブックといった企業だ。フェイスブックは10億超の会員を抱え、日々会員がモバイル機器などから入力するデータを処理し、収益に結び付けている。まさに今のMWCにふさわしい存在だ。

 これからあらゆる企業は例外なく、この動きに飲み込まれる。MWCでエンタープライズ分野の展示が増えるのにはこうした背景がある。

専用OS搭載“黒電話”守り固める新スマホ

 ここ数年、MWCの展示で主役の座を占めているのがコンシューマー向けスマートフォンだった。今回のMWC2014でも、韓国サムスン電子や中国華為技術(ファーウェイ)、日本のソニーモバイルコミュニケーションズがフラッグシップモデルを発表。ソニーの平井一夫代表執行役社長も登壇するなど、イベントに花を添えた(写真)。

図●MWCに合わせて発表された新機種と発表会の様子
図●MWCに合わせて発表された新機種と発表会の様子
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 しかし、今回のMWCには従来にない特徴がある。ビジネス関連を狙った発表も相次ぎ、多くのメーカーがエンタープライズ用途を訴求していることだ。

スマホセキュリティでもエコシステム

 2月24日、サムスン電子は「GALAXY S5」の発表時に、企業向けセキュリティ機能「Samsung KNOX」(KNOX)を大きく取り上げた。KNOXはBYOD(私物端末の業務利用)などを想定し、企業のデータを保護する仕組みを提供する。

 KNOXは昨年発表された機能だが、今回2.0にバージョンアップし、新機能を追加した。例えば、暗号鍵を受け渡すためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)の規定「PKCS#11」に対応。NFC(近接無線通信)対応の同社製スマートフォンをスマートカード(日本では一般にICカード)などとして使えるようになる。

 さらに米CAテクノロジーズの「CA Mobile Device Management」や米シトリックス・システムズの「XenMobile」などのKNOX2.0版が提供される。サムスン電子は、KNOX対応の企業向けアプリ配信基盤を整備するなど、法人向け施策を矢継ぎ早に打ち出している。

OSまでセキュリティに特化

 OSやサービスを含めて、セキュリティに特化したスマートフォンも登場した。スイスのブラックフォンが2月24日に発表した「Blackphone」がそれだ。

 ブラックフォンは、暗号化通信を手掛ける米サイレント・サークルとスペインのギークスフォンが合弁事業として立ち上げた企業。サイレント・サークルの創業者の一人は、暗号化ソフト「PGP」の開発者として知られるフィル・ジマーマン氏である。

 サイレント・サークルは、Blackphone向けに音声やメッセージを端末間で暗号化するサービスを提供。Blackphoneはオープンソースの「Android Open Source Project」(AOSP)をベースに開発された専用OS「PrivatOS」を搭載する。一般のAndroidより強固なセキュリティと、プライバシーに配慮した環境を提供できるとしている。

 発表会にはオランダの通信事業者であるKPNのCISO(チーフ・インフォメーション・セキュリティ・オフィサー)が登壇。ビジネス用途にはプライバシー保護とセキュリティが必須であるとし、6月からオランダ、ベルギー、ドイツで販売すると述べた。


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