中小IT企業をむしばむ多重下請け構造、二重派遣など法令無視の横行、若者の使い捨て・・・
日本のIT業界に根付いた悪弊は数十年を経て、なお改善されたとは言いがたい。
業界は束の間の特需に沸き立つが、今もってIT企業の利益率は低いまま。
2015年にやってくるIT受託業務の集中とその後の急減により、ユーザー企業を含めた業界全体が地盤沈下しかねない。
是正に向けた覚悟が問われる中、大手・中堅のIT企業は長時間勤務の改善や法令順守の強化、そして収益力の向上に乗り出している。
だが、元請けを頂点にした多重下請けというピラミッド構造の末端にまで、その効力が及んでいるとは言いがたい。
次ページではまず、日本のシステム開発現場の今を描写する。

(浅川 直輝、北川 賢一)

システム開発の現場は今・・・
現行SIモデルは限界点に
「日本流SI」の先にある新市場
気鋭のIT企業、脱受託へ


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現行SIモデルは限界点に

多重下請けや法令無視といった慣行が染み付いた日本のIT業界。
ここに「2015年問題」というIT技術者不足とその後の人余りが襲い掛かる。
この問題を、むしろ絶好の機会としてとらえ、
悪弊の連鎖を断ち切る覚悟がユーザー企業にもIT企業にも求められている。

 「北海道から九州まで、受託案件が増えているのは間違いない」。中小IT企業とIT受託案件のマッチングを図る日本情報技術取引所(JIET)の役員はこう語る。

 IT業界、特に企業向け情報システムのシステムインテグレーション(SI)を手掛けるIT受託の業界が今、好況に沸いている。リーマンショックや東日本大震災で凍結していたプロジェクトが再始動し、幅広い業界でIT投資が増えているのだ。「PHPやJavaプログラマーへの引き合いが強い。Day2(2008年までに2500億円を投じた、三菱東京UFJ銀行の勘定系システム統合プロジェクト)の頃よりIT技術者の不足感は高い」(リクルートスタッフィング執行役員の田中智己氏)。

 2014~15年には、IT受託の需要はさらに高まる見込み()。みずほ銀行のシステム刷新や番号制度(マイナンバー)などの案件が集中しているためだ。あるIT派遣業者は「みずほ銀行の件では、大手ITベンダーから『2014年春から2年間、5000人の技術者を確保したい』として、Javaプログラマーの大量供給を求められている」と明かす。IT技術者の派遣に顧客が支払う単価も1割ほど上昇しているという。

図●2014~2017年における金融・公共系大規模プロジェクト
図●2014~2017年における金融・公共系大規模プロジェクト
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 だが、この好況は長くは続かない可能性が高い。これらに続く大規模なシステム開発案件が見当たらないからだ。IT調査会社、ITRの内山悟志代表取締役は「みずほ銀を最後に、大手都銀の勘定系システムの刷新は一巡した」とみる。「製造業など他の業界のIT投資は持続するが、2000億~3000億円を投じる金融系と比べればケタが一つ落ちる」(同)。

2015年問題でIT業界の矛盾が露呈

 2015年にIT受託の仕事が集中し、その後に急減する――「2015年問題」と呼ばれるこの問題は、日本のIT業界が長年抱えていた矛盾を顕在化させることになりそうだ。

 冒頭の例で述べたように、日本のIT業界には多重下請けや法令無視、従業員の給与抑制といった慣行が染み付いている。偽装請負が問題化した2006年頃、ユーザー企業や大手ITベンダーは多重下請けの脱却を目指し、再委託を3次請けの正社員までに限るなどの改革を行った。だが、ある中小企業の社員は「最近はIT技術者の不足感から、『正社員必須』の要件が外れるなど、なし崩しになりつつある」と語る。二重派遣の横行も、こうしたIT技術者不足が背景にある。

 2015年問題でIT技術者の不足がさらに深刻化すれば、二重派遣などの法令無視や長時間労働を強いる企業が増えかねない。

 一方で、2015年を過ぎ、IT受託の仕事が急減した後の課題も指摘されている。このとき影響を受けるのは中小IT企業だろう。「製品とその運用で顧客をがっちり押さえている大手・中堅は、下請けを使わないことで対処できる。だがその分、中小IT企業には仕事が回らなくなる」と野村総合研究所の桑津浩太郎主席コンサルタントは予測する。


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