「自家用車」を購入するのか、それとも「タクシー」を利用するのか。
コンピュータリソースを自前で調達する「オンプレミス」と、
ベンダーに借りる「パブリッククラウド」では、それと同様の違いがある。
何かと維持費のかかる自家用車に比べ、タクシー利用は手軽で安価だ。
しかし、そんなタクシーも使い方を誤れば高くつく。
クラウドを“お得に”使うための二つの勘所を押さえよう。

(森山 徹)


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 回転寿司チェーン店を展開する「あきんどスシロー」の情報システム部長 田中覚氏は、「ITに投資するくらいなら、そのお金で“中とろ”を半額にしたほうが、お客さんに喜ばれるのではないか」と、社長から問いかけられる。「普段は遊んでいる、でもピーク時は遅い。そんな使えないシステムでは社長を説得できない」。そう考えた田中氏が選択したITインフラがパブリッククラウドだった。

 スシローだけではない。様々な企業がクラウドサービスでIT投資の最適化を図っている。ミサワホームは、会計や営業支援、受発注・在庫管理など、オンプレミス(自社内環境)で稼働していた基幹系システムのほとんどをAmazon Web Services(AWS)上で再構築中だ。宮本眞一 情報システム部長は、「オンプレミスで継続利用するのに比べて、コストを30~40%削減できる見込み」と、クラウドの費用対効果に手応えを感じている。

 一方で、費用面からクラウド採用を見送った例もある。インターネットを活用した求人求職情報サービスなどを提供するエン・ジャパンは、営業支援向けCRM(顧客関係管理)システムの構築に当たり、セールスフォース・ドットコムのサービスを検討したが、「数百人規模で使うとランニングコストが高くつくと判断し、オンプレミスで構築した」(エン・ジャパン 管理本部の才賀明氏)。

 「クラウドが安い」かどうかは使い方やユーザーの数など、様々な要件で決まる。試行錯誤を重ねた各社の事例を通じ、クラウドを“お得に”使う勘所が見えてきた()。

図●クラウドを活用するユーザー企業の例
図●クラウドを活用するユーザー企業の例
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三つのモデルで異なるメリット

 コストの妥当性を判断するための第1の勘所は、自社がクラウドに求めるメリットを明確にすることだ。一般にクラウドは、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の3モデルがあり、得られるメリットは異なる。

 アプリケーションを提供するSaaSは、自社要件にハマれば、費用対効果は最も高い。その対極にあるIaaSは、クラウド事業者が提供するハード上で、ユーザーが自由にシステムを作れる。東急リバブルは、オンプレミスで運用中の営業系システムを、2~3年後に、IaaS上で再構築する計画だ。「アプリをそのまま移行するのではなく、新しい基盤上で作り直したほうがコストメリットは高い」。 IT推進部長の島村誠一氏はこう語る。

 インターネットイニシアティブ サービス戦略部の土岐田尚也氏は「オンプレミスシステムの移行先としてIaaSがよく選ばれる」と話す。IaaSが提供する機能は様々であり、ユーザーが求めるメリットにも差がある。両者が合致することで費用対効果は高まる。以下では、IaaSの費用とメリットを検証しよう。


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