交通、水道、電力といった日本の社会インフラが悲鳴を上げている。財政逼迫により十分な投資ができずに更新が滞り、少子高齢化に伴って運営ノウハウも失われつつある。これを打開する鍵が「Internet of Things(IoT)」。インターネットでつながった様々なものから情報を吸い上げて分析し、社会インフラの安全性を高めつつ、効率化を実現する。IoTによって変貌を遂げつつある社会インフラの最前線に迫る。

(小笠原 啓)


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交通:自動車

歩行者のスマホとクルマが通信
IoTで目に見えない危険を回避

 死角にいる電動カートを、自動車に搭載したセンサーが検知。交差点の手前で自動停止し、出会い頭の事故を防いだ──。

 “モノ同士”がつながることで、目に見えない危険を回避する試みが始まっている。ホンダが2013年10月に国内で初公開した自動運転車は、Internet of Things(IoT)が交通インフラを大きく変えている、先進事例として位置づけられる(写真)。デモでは「アコード ハイブリッド」をベースとした自動運転車が、電動カートに搭載したスマートフォンとWi-Fiで通信。電動カートの動きを自動運転車のシステムが予測することで、衝突を回避した。さらに、車載カメラで歩行者の体の向きを分析し、「横断歩道を渡ろうとしている」と判断した場合に、自動でブレーキをかける機能も披露した。

写真●ホンダが公開した自動運転車
写真●ホンダが公開した自動運転車
電動カートとWi-Fiで通信。自動運転車は電動カートが死角に潜んでいることを察知した

周りとつながる協調型自動運転

 世界各地で、自動運転技術の開発競争が過熱している。トヨタ自動車や独ダイムラーのような自動車メーカーだけでなく、米グーグルなどIT企業も参戦。2020年ごろの実用化を目指して、先陣争いを繰り広げている。ホンダもこの争いに名乗りを上げた格好だ。

 現時点では、自動運転技術は二つの方式に大別できる。一つは車載レーダーなどで収集した情報のみを基に走行する「自律型」。もう一つは高度道路交通システム(ITS)やクラウドと通信し、外部情報を活用して走行する「協調型」である。ホンダが注力するのは後者の協調型。通信機能を活用すれば、直接目に見えない危険にも対応できるからだ。「より高度な自動運転技術の実現には、周囲の環境と協調する必要がある」。開発を手掛ける本田技術研究所四輪R&Dセンター第12技術開発室の横山利夫 上席研究員はこう説明する。様々なモノとモノとをインターネットでつなぎ、情報を交換することで新たな機能を実現していくわけだ。冒頭のデモでは、歩行者などが持つスマホと自動車が通信することで事故を未然に防いだ。だがこれは、ホンダが目指す世界の、ほんの一部に過ぎない。

 周囲を走る自動車と通信すれば、進行方向の渋滞や故障車を事前に察知できるようになる。ブレーキを踏むタイミングを前後の車両で合わせれば、渋滞の緩和にもつながる。信号や監視カメラといった路上の設備と自動運転車が通信すれば、無人で所定の位置に駐車することすら可能になる。

 ホンダは2002年から、カーナビ向け情報配信サービス「インターナビ・リンク プレミアムクラブ」を開始。185万台以上のホンダ車から59億キロメートル超の走行データを収集してクラウド上に蓄積し、カーナビのルート計算の高度化などに使っている。

 この「ビッグデータ資産」を活用することも、ホンダが協調型にこだわる理由だ。膨大な走行データを分析することで、急ブレーキ多発地点などを特定。そうした情報をクラウドから自動運転車に随時配信すれば、安全性の向上に直結する。また、自動運転に必要な情報処理の一部をクラウド化できれば、「車載システムを安価に構築できるようになる」と横山上席研究員は指摘する。


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