独創性やフットワークの軽さ、発想力――。大手にない強みを持つ異能のITベンチャーとタッグを組み、新たな事業やサービスを実現する企業が急増している。各社は、新ビジネスの決め手となったベンチャーをどう選び、活用に至ったのか。JTBやイオンなど6社の事例から極意に迫る。

(岡部 一詩)


【無料】特別編集版(電子版)を差し上げます 本記事は日経コンピュータ9月19日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文は、日経BPストアの【無料】特別編集版(電子版)で、PCやスマートフォンにて、9月26日よりお読みいただけます。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「ベンチャー企業と付き合わないのはもったいない」。文具や家具の販売を手掛けるプラスジョインテックスカンパニーの伊藤羊一執行役員ヴァイスプレジデントは断言する。ベンチャーが生み出す新たな製品やサービスが、自社の競争力強化に欠かせないと考えているからだ。

 同社が利用しているのはWebベンチャーであるgambaの日報共有サービスや、co-meetingが提供するテキストベースの会議サービス。新規プロジェクトのメンバーや経営幹部同士の情報共有に使用し、「意思決定のスピードが上がった」と伊藤執行役員は話す。ベンチャー関連のイベントに毎週参加するなど、今も伊藤執行役員は情報収集にいそしむ。

 日経コンピュータ システム部長会の会員向け調査では、ITベンチャー企業を既に活用しているのは半数。「今後活用したい」を含めると9割近くに達した()。

図●ユーザー企業におけるITベンチャーの活用状況と期待する領域
図●ユーザー企業におけるITベンチャーの活用状況と期待する領域
[画像のクリックで拡大表示]

 ベンチャーを活用したいという意欲を持つ企業は着実に増えている。分野としては、Webとスマートフォン/タブレットが2強だ。

 ユーザー企業が挙げる、大手にはないベンチャーの強みは大きく三つある。「独創性」「フットワークの軽さ」「発想力」だ。これらを生かしたユーザー企業6社の事例を見ていこう。

i.JTB フォルシア
ECの“命”を支える

 「国内ではここしかない」。JTBグループのインターネット販売事業を手掛けるi.JTBの田村直樹システム企画部長は、検索エンジン「Spook」の開発元であるフォルシアの独創性を高く評価する。

 「検索はEC(電子商取引)サイトの“命”」(田村部長)。ここを担うのがSpookだ。i.JTBが運営する「るるぶトラベル」とJTBのホームページにおける国内宿泊施設向けの検索に使っている。

 Spookの強みは、利用者が指定していない条件の検索結果までを表示することだ。便利と思われる条件の検索を、言わば先回りして実行する。

 例えば、るるぶトラベルで「日付」だけを条件として検索した場合、各地域ごとの宿泊件数などを同時に示す。これが利用者の使い勝手の向上と潜在ニーズの掘り起こしにつながり、「Spookを採用したECサイトは、軒並み売上高を1.5倍に伸ばしている」とフォルシアの屋代浩子社長は語る。

 条件を絞り込んでいない領域の結果まで表示するのは、実は技術的なハードルが高い。データベース(DB)に格納した全データをリアルタイムに検索し、かつ素早く結果を取得する必要があるからだ。フォルシアは5年をかけてDB設計や検索ロジックの改良を重ね、Spookを実現した。

 i.JTBはフォルシアの取り組みを評価し、Spookをいち早く採用。現在は、i.JTBを含む20以上の大手旅行会社のサイトが使う。従業員50人のITベンチャーが、大手ECサイトの命を支えているのだ。


続きは日経コンピュータ9月19日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。