データ保存手段として、既に過去の遺物と思われていた「磁気テープ」の生産量が急回復している。ここ数年で急速に大容量化し、主に海外で需要が伸びているためだ。復権の背景には日本のメーカーによる技術革新があった。クラウドやビッグデータでも活用が進む磁気テープの最新動向を解説する。

(中田 敦)


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 磁気テープは、過去の遺物─―。

 データのバックアップやアーカイブ(長期保存)の有力手段である磁気テープのことを、そう思っている読者は少なくないだろう。

 実際、日本国内におけるテープストレージ(テープドライブやカートリッジの自動入れ替え装置)の市場規模は減少し続けている。IDC Japanの調査によれば、2012年の国内テープストレージ市場規模は、前年比15.2%減となる158億8900万円で、少なくとも5年連続で縮小しているという。過去の同様な調査結果を遡ると、市場規模は過去10年間で3分の1以下になった公算が強い。

 しかし海外に目を転じると、磁気テープは意外なほど需要が伸びている。その証拠を、ここでは二つ示そう。まずは数字だ。情報システム分野で使用される「データ記録用磁気テープ」の生産量が、2010年以降、「V字回復」を遂げているのだ。

 以下のグラフは、経済産業省が発表した「磁気録音・録画テープ」を除く「その他の磁気テープ」、つまりデータ記録用磁気テープの年間生産量の推移だ。磁気テープを生産しているのは世界中で日本だけなので、この数字が、データ記録用磁気テープの「世界生産量」となる。

データ記録用磁気テープ生産量
データ記録用磁気テープ生産量
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 グラフから分かるように、データ記録用磁気テープの生産量は、2010年以降、3年連続で増加中だ。2000年代後半は横ばいで、2009年に大幅減少したことを踏まえると、まさにV字回復と言える。

 磁気テープ復権の二つ目の証拠は、大規模な導入事例だ。

クラウドでも磁気テープが復権

 2012年11月、米グーグルは同社のデータセンターの内部を「ストリートビュー」で公開し、大規模なテープライブラリーを利用していることを明らかにした。同社のクラウドサービスを利用するユーザーのデータのバックアップに活用している。例えば、ユーザー数が4億人を超える電子メールサービス「Gmail」も対象だ。実際、2011年2月にGmailに障害が発生し、ユーザーのデータが一時消失した際には、磁気テープのバックアップからデータをリストアしている。

 なぜ今、磁気テープが復権しているのか。供給側、需要側にそれぞれ理由が存在する。

 供給側の理由としては、磁気テープの容量が2011年以降、ハードディスクドライブ(HDD)を上回る勢いで増加していることが挙げられる。

 2000年代後半は、磁気テープの「記録密度」(単位面積当たりに記録できるデータ量)が、上がらなくなっていた。それが「磁気テープ離れ」を招いていた。


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