いま世界中で、クラウド事業者による巨大データセンター(DC)の建設ラッシュが続いている。クラウド事業者が造るDCは、従来の企業向けDCとは異なる予想外の進化を遂げている。その進化の一端を、マイクロソフトやフェイスブックなどが明かし始めた。彼らの「すごいデータセンター」からは、DCの未来像が浮かび上がってくる。その「すごさ」を五つ紹介しよう

(中田 敦)


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すごい建物
一つのコンピュータのように集中制御

 北極圏まで直線距離でおよそ100キロメートル。米フェイスブックは2013年6月、夏でも気温が30度を上回ることが無いスウェーデンのルレオ市に、他社のデータセンター(DC)とは建物の設計思想が異なるDCを建設した。「ルレオDC」である。

 ルレオDCは、フェイスブックが自社のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を欧州のユーザーに対して提供するためだけに自社でデザインし、建設した施設だ。当然のことながら、ルレオDCの中にはフェイスブックのサーバーしか存在しない。

 フェイスブックが造るDCについて、DC事情に詳しいビットアイル総合研究所の伊藤正宏フェローは、「DC全体が一つのコンピュータとして設計されていることがすごい」と説明する。これはどういうことか。ルレオDCの写真(下のA、B、C、D)を基に説明しよう。

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 ルレオDCの建物の外壁には、外気を取り込む送風口が取り付けられている。送風口の内側には、外気中の砂ぼこりなどを除去する緑色のフィルターがある(写真A)。フィルターの裏側には壁一面に大型のファンが設置されており(同B)、そこからサーバールームに外気を送り込む。外気はサーバーの中を通ってサーバーの熱を冷まし(同C)、暖められた空気は巨大なファンによって外に排出される(同D)。

 ルレオDCのような外気冷却型DCは、日本でも増えている。しかし、ルレオDCが他の外気冷却型DCと決定的に異なるのは、「外気を吸い込むファン」と「外気をサーバー内に吸い込むサーバー内蔵ファン」、「暖められた空気を屋外にはき出す壁面ファン」の三つが、全て連動して動いていることだ。これが、伊藤氏の言う「一つのコンピュータとして設計されたDC」のすごさである。

 空気の流れは、通過するファンの「流体インピーダンス」(空気の流れやすさ)が同じ時に、最も効率が良くなる。ルレオDCでは、単に外気を取り入れるだけでなく、取り入れた後の空気の流れをDC全体で制御することでファンの消費電力も最小化している。このような取り組みを行うことで、年間のPUE(消費電力効率)は「1.07」を見込んでいる。

 PUEはデータセンター全体の総消費電力量をIT機器の消費電力量で割った値で、1に近づくほどエネルギー効率が高いことを示す。1.07というPUEは、サーバー冷却にほとんど電力を使っていないことを意味する。

 フェイスブックは空調設備やサーバー自体も自社で設計し、ODM(相手先ブランドによる設計製造)を手がける台湾メーカーに作らせている。だからこそルレオDCでは、建物に据え付けられたファンと、サーバーの内蔵ファンとを連動して稼働できる。


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