バングラデシュ、ラオス、カンボジア――。日系企業のオフショア委託先として先行する「第一勢力」の中国・インドと「第二勢力」のベトナム・フィリピンに続き、「第三勢力」が台頭しつつある。現地取材を交え、知られざる新興ITパワーのコスト競争力や技術力の実態を探る。
(岡部 一詩)

バングラデシュ
頭脳はインド並み、単価半額 「繊維の次はIT」政府が始動
インドの隣国バングラデシュの首都ダッカ。道にはミシン1台を置いただけの机がずらりと並ぶ。衣服の修繕屋たちの仕事場だ。客から依頼を受けると、その場でミシンを踏み始める(写真)。繊維大国であることを改めて思い知る光景だ。

バングラデシュにはスウェーデンのH&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)や、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングといった世界のアパレルメーカーが生産拠点を構える。同国における輸出額の約8割は衣料品が占めている。
そんなバングラデシュが「IT立国」への道を歩み始めていることは、日本ではあまり知られていない。輸出額に占めるIT関連製品の割合は現時点では1%に満たないが、実はバングラデシュにはオフショア委託先としての必要条件がそろっている。
人口は1億6000万人と多く、隣国インド同様に数学的思考に長けた人材が豊富だ。それでいて、IT人材の人件費は新卒初任給で見ると250~300ドル程度とインドの半分に近い。
IT集積地の建設が相次ぐ

同国政府もその潜在力を開花させるべく全力を挙げる。現在はアジア最貧国の一つだが、独立50周年となる2021年までに中所得国になることを標榜するバングラデシュは「デジタル・バングラデシュ」のスローガンの下、IT産業を縫製業に次ぐ輸出産業に育てる方針を掲げる(図)。
その柱となるのが「IT集積地」の建設だ。海外からIT企業の投資を呼び込むことで経済成長を促進すると同時に、IT関連分野の雇用を創出して人材育成につなげる政策である。
既に政府主導で三つのプロジェクトが動き出している。一つめがダッカ中心部の案件だ。「カウラン・バザール」地区に14階建てのビルを建設済みで、そこにソフト開発会社を誘致する。
二つめはダッカの北40キロメートルに位置するカリアクールのハイテクパークだ。東京ドーム20個分の土地にハードウエア関連の工場のほか、電機・医療・IT分野のハイテク企業を集積させる。政府の入札に応じた国内3社とマレーシアの政府系企業がデベロッパーとして開発計画を立案中で、6カ月~1年後には着工し、2015年までの完成を目指している。
三つめはダッカの南西、クルナ管区ジョショールのITパークである。既に4億8000万円の政府予算を確保しており、1~2年後には着工したい考えだ。情報通信省管轄のバングラデシュハイテクパーク局で責任者を務めるアジズル・ラーマン マネージングディレクターは「他に3~4カ所のITパークを建設する用意がある」と明かす。
いずれのパークでも、入居企業に対して10年間の免税期間を設け、輸出入にかかる関税の優遇措置も予定する。これまで脆弱だった電気・ガスなどのライフラインや交通インフラも整備する。「日系企業にもぜひ進出してもらいたい」とラーマン マネージングディレクターは強調する。
欧米が開拓を先行
現時点でバングラデシュのIT産業規模は推定4億ドルと、ベトナムやフィリピンの1割にも満たない。そのうち海外からのソフト開発受託は、1.5億~2億ドル程度にとどまるとみられる。
この、海外からの受託規模について「5年後には10億ドル規模にしたい」と野心的な目標を掲げるのが、300社以上のIT企業が加盟する同国最大規模のIT業界団体BASISのファヒム・マシュロアプレジデントだ。現在の5~6倍の規模だが、達成の可能性は十分ある。「外資系企業がバングラデシュのオフショア開発に本腰を入れ始めたのは2010年ごろから」(現地進出コンサルティング会社バングラ・ビジネス・パートナーズ・ジャパンの岡崎透社長)とまだ日は浅く、成長の余地が十分に残されているからだ。
同国のオフショア事業は欧米向けが先行している。米国向けが全体の約50%を占め、英国向けとデンマーク向けがそれぞれ10%で続く。
バングラデシュは英連邦加盟国であり、英国とのつながりは深い。デンマークは政府がバングラデシュ向け施策に力を入れており、現地企業とのジョイントベンチャーを15社ほど設立しているという。
日本向けのオフショア開発が占める割合は全体の5%程度で、米英デンマークに続く4番手にとどまっているのが現状だ。
続きは日経コンピュータ4月18日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。