ユーザーに楽しさや驚き、心地良さを与え、「ぜひまた使ってみたい」と思わせる。こうした「UX(ユーザーエクスペリエンス)」を重視して情報システムを開発・活用する企業が相次ぎ登場している。売り上げを倍増させた成功事例も出てきた。ただ、UX重視のシステム開発では思い切った発想の転換が不可欠。ユーザーを中心に考え、利用者の心の動きまでを把握してシステムに生かす必要があるからだ。「使いたくなるシステム」の開発に挑んだ企業の事例を基に、優れたUXを実現するポイントを探った。

(浅川 直輝)

◆発想を根底から変える
◆成功事例に見る三つの原則
◆「脱スマホ」へ急ピッチで進化


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 顧客にも販売員にも満足感を与えるシステム。化粧品の店頭販売を手掛けるファンケルが2012年に刷新した顧客対応システムの「要件」である。

 旧システムは顧客の購買履歴を味気ないリストで表示していた(左)。新システムではこのリストを、タブレットの画面1枚でビジュアルに表示できる(図右)。客との会話を妨げないよう、販売員が会話の合間に一目で把握できるようにした。

図●ユーザーエクスペリエンス(UX)を追求した、ファンケルの顧客対応システム<br>顧客との会話を妨げることなく、画面を見てすぐに顧客の購買履歴が分かるようにした
図●ユーザーエクスペリエンス(UX)を追求した、ファンケルの顧客対応システム
顧客との会話を妨げることなく、画面を見てすぐに顧客の購買履歴が分かるようにした
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 横軸を時間とする画面構成、アイコンの絵柄、アイコンから伸びるバー。直営店の販売員やトレーナー約30人が開発に関わり、何度も試作を重ねて、これらの要素一つひとつを決めていった。

 顧客と販売員それぞれに優れた「体験(エクスペリエンス)」を与える。これが新システムの狙いだ。顧客に対しては「自分の肌質にぴったり合う商品が見つかった」という体験、販売員に対しては「顧客に喜んでもらえた」という体験を作り出すわけだ。

システム開発が「UX重視」に

 ファンケルのように、情報システムが利用者にもたらす体験、すなわちユーザーエクスペリエンス(UX)を重視してシステムを開発する企業が相次ぎ登場している。

 UXは、システムが利用者にもたらす体験の総称である。特に利用者をワクワクさせたり、何らかの価値を与えるような体験を指す。ユーザビリティ(使い勝手)に加えて、楽しさや心地良さ、感動、愛着、行動の変化、インスピレーションやコラボレーションの喚起などが含まれる。

 スマートフォンやタブレットの直感的な操作性、あるいはゲームの要素をシステムに取り込むことでユーザーを動機付けるゲーミフィケーションなどを積極的に活用し、利用者に与える体験を最も重視してシステムを開発する。これがUXの開発スタイルだ。「まず機能ありき」のシステム開発とは、発想が根底から異なる。

 ディズニーランドのように、何回も訪れたくなる店舗を作りたい――こう考えたアパレル会社「せーの」の石川涼社長は、店内のハンガーを使ったサイネージシステムを導入した。客がハンガーを手に取ると、大型ディスプレイに男装の女性モデルが現れ、声をかけてくれる。EC(電子商取引)サイトにはない、店舗ならではの楽しさを演出した。

 一方、UXを重視して社内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を構築したのが、モスフードサービスだ。同社の臼井司執行役員は「社員がお祭り感覚で利用してくれた。社員同士の交流をより深めることができた」と、UXを重視した社内SNSの導入効果に顔をほころばせる。

 同社は創業40周年記念イベントの一環として、半年間限定の社内SNSを構築。投稿やコメントにポイントを与えるなどゲーミフィケーションの要素を取り入れ、社員を飽きさせない工夫を散りばめた。この結果、全社員の3割に当たる約250人が社内SNSのアクティブユーザーになった。

 なぜ今、このようにUXを重視する企業が増えつつあるのか。直接的なきっかけは、スマートフォンやタブレットといった「ポストPC端末」の普及だ。


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