まずはパブリッククラウドでできないか──。システムを構築する際に、パブリッククラウドを第一の選択肢とする「クラウドファースト」が、日本でも常識になりはじめた。本誌がユーザー企業100社に取材や調査を行ったところ、製造、流通、外食といった様々な業種の企業が、クラウドファーストを実践していることが判明。

 パブリッククラウドは、先進的な企業が限られたシステムに適用するという特別な存在から、一般企業があらゆるシステムに適用する当たり前の存在に変わっている。ユーザー企業100社の選択から、最新のクラウド活用動向を探る。

(中田 敦)

◆クラウドが第一の選択肢に
◆我ら「クラウドファースト」企業
◆クラウド活用、我が社の「条件」
◆クラウド全面活用は14%


【無料】特別編集版(電子版)を差し上げます 本記事は日経コンピュータ1月24日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文は、日経BPストアの【無料】特別編集版(電子版)で、PCやスマートフォンにて、1月31日よりお読みいただけます。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「サーバーはもう、一切購入していない。新規システムは全て、『Amazon Web Services(AWS)』上に構築する。既存システムもハードの保守が切れたものから順次、AWSに移行する」(東急ハンズの長谷川秀樹執行役員)。

 情報システムを構築する際に、パブリッククラウドを第一の選択肢とする。そんな「クラウドファースト」を実践するユーザー企業が、日本で増えている。

 JPメディアダイレクト、TOTO、あきんどスシロー、アプリボット、ガリバーインターナショナル、ケンコーコム、コクヨ、東急ハンズ、日本瓦斯、ミサワホーム、ユー・エム・シー(UMC)・エレクトロニクス──。本誌の取材によって、これだけ多くの企業が、クラウドファーストを実践していることが分かった。

 今、クラウドファーストが増えている背景には、二つの大きな変化があった。

 一つめは、供給側の変化である。かつてパブリッククラウドのサービス提供事業者といえば、米国ベンダーが中心で、サービスは日本国外のデータセンター(DC)から提供されるのが一般的だった。それが今では、様々な国内ベンダーがクラウド市場に参入し、米国ベンダーも国内のDCからサービスを提供するようになった。

 全業務システムのAWSへの移行を進めているガリバーインターナショナルの椛田泰行クラウドプロジェクトリーダーは、「AWSを使うようになったのは、国内でDCを運営する東京リージョンができ、管理ツールなども日本語化されたからだ」と語る。

 技術面での進歩も大きい。以前のIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)では、限られた種類のOSやミドルウエアしか利用できなかった。現在は、様々なパッケージベンダーによるIaaSのサポートが進んでいる。2012年には、ERP(統合基幹業務システム)最大手の独SAPが、「SAP ERP」などの実行環境として、AWSをサポートした。

 パッケージベンダーのサポートによって、ユーザー企業にとってクラウドを利用するハードルは大きく下がった。2012年9月からERPの「SAP Business All-in-One」をAWSで稼働し始めたUMCエレクトロニクスの須藤健情報システムグループ課長は、「SAPジャパンからAWSを勧められたのが、AWSを採用した理由」と証言する。クラウドはユーザー企業にとって、「特別な努力」無しに使える存在になった。

クラウドで「持たざる経営」

 もう一つの変化は、ユーザー企業側で起きた。長引く不景気の中、IT資産を所有しない「持たざる経営」へのニーズはますます高まっている。新規事業に挑戦する上で、初期投資を抑えられるクラウドは、ユーザー企業にとって第一の選択肢となった。

 現時点でクラウドファーストを実践するユーザー企業は少数派だ。しかし本誌が、パブリッククラウドを活用するユーザー企業100社に取材や調査を行ったところ、多くの企業がクラウド利用を活発化している実態が明らかになった()。クラウドの適用範囲は、従来のWebや情報系システムから、基幹系システム、ビッグデータなどに広がっている。多くの企業が条件に合うシステムに関して、適材適所でクラウドを活用している。

表●パブリッククラウドを利用する100社の例(抜粋)
表中「-」とあるのは、非公開または不明
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表●パブリッククラウドを利用する100社の例(抜粋)<br>表中「-」とあるのは、非公開または不明

 本特集ではまず、クラウドファーストを実践する11社の事例から、現時点で最も積極的なクラウド活用の実態を紹介する。続いて、適材適所の考え方でクラウドを導入している10社の事例を基に、多くの企業にとって「現実解」のクラウド導入のあり方を探る。併せて、クラウド利用企業に対するアンケート調査の結果などを基に、ユーザー企業によるクラウド選択の実情を見ていく。

 クラウドファーストには大きく二つのパターンがある。一つは、パブリッククラウドとオンプレミスを比較し、クラウドの方が技術的に優れ、コストも低いと判断した「ボトムアップ派」。もう一つは、経営陣が経営目標を達成するために、クラウドファーストを決断した「トップダウン派」だ。

 ボトムアップ派の代表格が、東急ハンズ、あきんどスシロー、ガリバーだ。いずれもインフラはAWSを、情報系システムは「Google Apps for Business」を選んだ。

 トップダウン派の経営者は、ミサワホームとTOTOは財務的な理由から、日本瓦斯、JPメディアダイレクト、コクヨの3社は、社長が独自の狙いを込めてクラウドファーストを選択した。

 それぞれの事情を見ていこう。


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