私物のスマホやタブレット端末を業務で利用するBYOD(ブリング・ユア・オウン・デバイス)が新展開を見せている。仕事を円滑に進めるために、オンラインストレージやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など、個人が契約したクラウドサービスを私物の端末から利用するビジネスパーソンが増えているのだ。こうした端末やシステムの“公私混同”の潮流に、システム部門はどう対処すればよいか。本誌は二つの方策を提案する。

(高槻 芳)

◆クラウドが生むBYOD新潮流
◆クラウドにお墨付きを与える
◆法人向けで“ほどほど”実現
◆システム部門こそ公私混同を


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 「次の会議は確か1時間後。今のうちに、前回の会議内容を確認しておこう」。真夏日が続いた2012年8月のある日、中堅カード会社で営業部長を務める近藤進氏(仮名、50歳)は、横断歩道の赤信号の間にスマホをポケットから取り出した。1年前に購入した私物のスマホだ。

 「古いスマホは遅くてね。仕事のために買い替えたんだよ」。スマホを本誌記者に自慢しながら、慣れた手つきで画面をタッチし、スケジュールや会議資料を確認した。「そういえば、先方の担当者が変わったんだ。名前も確認しておこう」。名刺管理アプリを起動。クラウド上に保管してある名刺データを検索した。

 「これらがないと、仕事にならない」。近藤部長はスマホの画面を指さし、話を続ける。「うちの会社のシステム部門は、どうも頭が固すぎる。私物のスマホやクラウドの利用を認めるようにするとか、それに近いシステムを作るとか、今どきのITをもっと勉強してほしいものだよ」。

デバイスを越える私物解禁

 本誌は「私物解禁」と題し、1年以上前の2011年6月23日号で、BYOD(ブリング・ユア・オウン・デバイス)の広がりや必要性を報じた。当時は、会社支給のPCやスマホの代わりに、私物のスマホなどから会社のシステムにアクセスし、「いつでもどこでも仕事ができるようにする」ことが、新しい動きだった。

 だが、わずか1年で状況は大きく進展した。会社のシステムにアクセスするだけでなく、個人が契約したクラウドサービスに仕事のデータを保管し、業務で利用するケースが増えているのだ。

 冒頭で紹介した近藤部長は、米グーグルの「Google Calender」でスケジュールを管理している。会社のグループウエアには社外からアクセスできないため、会社のPCにエージェントソフトを導入。自動的にクラウド上のスケジュールと同期して、いつでもどこでも個人のスマホからスケジュールを管理できるようにした。

 米エバーノートのクラウドサービス「Evernote」も活用中だ。会議資料やプレゼン資料だけでなく、スマホのカメラで撮影したホワイトボードやノートに記したメモもアップロードしている。名刺管理やオンラインストレージなどのクラウドサービスも、個人で契約し仕事で使っている。

 従来のBYODであれば、外部からのデータの閲覧状況などを会社のシステム側で把握したり、社外からのアクセスをコントロールしたりできる。だが、私物の端末から個人契約したクラウドを利用する最近のケースでは、システム部門は全く手を出せない()。

図●最近のBYODの特徴
図●最近のBYODの特徴
個人が契約したクラウドサービスに会議資料や名刺などの業務の情報を管理。個人所有の端末(スマホやタブレット)からクラウドにアクセスする

 とはいえ、システム部門は短絡的にこれらを禁止すれば済む状況ではない。自分の時間を有効に使うため、仕事の生産性を高めるために、私物端末と個人向けクラウドを業務で使う“公私混同”を、ユーザーが求めているからだ。「社内からしか利用できないシステムよりも便利。私物のスマホや個人契約したクラウドは、業務システムの一部」(近藤部長)といった声は少なくない。

約半数がBYODを実践中

 スマホなど私物のデバイスや個人向けのクラウドサービス(以下、個人向けクラウド)を業務で利用するBYODは、驚くべき速さで浸透している。

 本誌がIT総合情報サイトの「ITpro」読者を対象にインターネット調査(調査期間は2012年7月11日から26日)を実施したところ、半数を超える53.9%が私物端末を業務で利用(音声通話を除いたデータ通信での利用)していると回答した。さらに、全体の4割強となる43.8%は、個人向けクラウドを業務で使っている。

 私物端末や個人向けクラウドの、利用頻度の高さも目を引く。回答者の33.1%は私物端末を「ほぼ毎日」業務で利用し、全体の30.1%は個人向けクラウドを「ほぼ毎日」業務で利用していた。「週に2~3日程度」や「週に1日」も含めると、その割合は私物端末の業務利用は47.3%、個人向けクラウドは40.6%に達する。

システム部門への不満噴出

 こうした動きに、ユーザー企業のシステム部門は対応できているのだろうか──。会社は正式に認めていないものの、BYODを実践している調査回答者を集めた覆面座談会では、この問いに対し全員が首を横に振った。

 「代替案を用意せず、『危ないから使うな』だけではだめだ。私物のスマホやクラウドを使い続けないと、仕事で今のパフォーマンスは維持できない」(金融業の営業担当者)、「BYODが厳しく禁止されたら、ユーザーはデータを印刷したり、USBメモリーにコピーして持ち歩くようになる。それでも禁止するのは、システム部門の責任回避にしか見えない」(物流業の営業担当者)、といった厳しい意見が相次いだ。


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