スマートフォンやタブレット端末をビジネスに最大限に活用するためには、自社の業務に合ったアプリを素早く開発し、最適なタイミングで使い始めることが重要である。ただし、スマートデバイス向けアプリ開発は、これまでシステム部門が手掛けてきたアプリケーション開発とは、考え方や使う技術が大きく異なる。これまでの「常識」は通用しない。企業向けのアプリ開発フレームワークや開発を支援するクラウドサービスも登場し、道具立ても整ってきた。アプリ開発の最適解を探る。

(福田 崇男)

◆アプリ開発の「常識」が違う
◆先行企業に見る五つの勘所
◆開発基盤でスピードアップ


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 この6月、フィリピン・マニラ近郊にあるマカティ市の高層ビルのオフィスで、スマートフォンやタブレット端末対応のアプリ開発拠点「Laboratory V」が活動を開始した。メンバーは全員が20代、30代のエンジニアで、HTML5やCSS3(カスケード・スタイル・シート3)、JavaScriptなどによる開発を得意とする。

 この拠点を立ち上げたのは、企業向けのオークション事業を手掛けるオークネットである。同社が出資するIT関連会社のオフィス内にスペースを設けて、現地採用の技術者やデザイナーを配した()。ユーザー企業が、スマホアプリの開発を目的に海外に拠点を設けるのは珍しい。

図●オークネットがフィリピンにアプリ開発拠点「Laboratory V」を開設した経緯<br>HTML5やCSS3を使ってスマホやタブレット端末に対応したアプリを開発するオフショア拠点を設けた
図●オークネットがフィリピンにアプリ開発拠点「Laboratory V」を開設した経緯
HTML5やCSS3を使ってスマホやタブレット端末に対応したアプリを開発するオフショア拠点を設けた
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 オークネットがここまで取り組む理由は、国内のITベンダーにHTML5を使ったスマホやタブレット端末向けアプリ開発や、ユーザーインタフェース設計のノウハウや技術が不足していると判断したからだ。「今後のシステム開発は、スマホやタブレット端末を想定したマルチデバイス対応が必要だ。HTML5を中心に開発を進めていくことにしたが、国内では技術者が確保できないのが悩みだった」とオークネットの鈴木廣太郎常務執行役員は明かす。

 同社はこれまでも、スマホやタブレット端末などスマートデバイスに対応した情報システムを開発してきた。PCだけでなくスマホやタブレット端末から「競り」に参加するオークションアプリや、中古自動車査定のアプリなどだ。この6月には、オークションで取引する商品物流の現場でiPadなどから操作するシステム「mint smart backyard system」を稼働させたばかりだ。

 こういったスマートデバイス対応システムを開発する際に常に課題となるのが、ITベンダーの選定だった。オークネットが活用を目指すHTML5に通じたITベンダーはまだ少ない。「実際に会って話をしたITベンダーは100社を超えた。それでもこの会社にお願いしたい、というベンダーは見つからなかった」(オークネット システムサービス事業部の黒柳為之ジェネラル・マネージャー)。

 そこで海外の技術者に目を向けた。スマホやHTML5の技術は日進月歩であるため、ネットで最新の情報を得やすい英語圏の技術者が望ましい。「フィリピンは日本との時差も少なく、最適と考えた」(鈴木常務)。

 100人弱の候補者を面接し、テストとしてスマホ向けHTML5アプリを実際に作ってもらい、その中からまずは6人を採用することにした。CSS3を使って画面を設計するデザイナーと、データの処理やAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)の呼び出し機能をHTML5やJavaScriptで実装するプログラマーが、3人ずつだ。人員は徐々に増やす。すでに三つの社内システム案件が決まっている。


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