企業と消費者(ユーザー)の関係が今、大きく変わりつつある。スマートフォンやソーシャルメディアの普及により、ユーザーの好みや行動履歴、知人・友人関係などの様々な個人情報を収集し、サービスの向上や新ビジネスの創出に生かせるようになったからだ。だが、そこにはプライバシー侵害や悪評などのリスクも潜む。こうしたリスクを抑えつつ、個人情報をビジネスに「使い倒す」ために、システム部門が心がけておくべき基本と鉄則を紹介する。
(浅川 直輝)
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攻める米国、萎縮する日本
2012年3月1日、世界各国で非難の声が高まる中、米グーグルは新しいプライバシーポリシーを発効した。検索履歴やIPアドレス、電話番号、電子メールやドキュメント管理サービスのアクセス履歴など、これまでサービスごとに分けて管理していた個人の情報を一つにまとめ、複数のサービスで共有できるようにする(図)。

グーグルの狙いは、個人とサービスの密着度を高めることにある。新しいポリシーに変更したことで、YouTubeで動画を閲覧した履歴をそのユーザーのキーワード検索に反映したり、ドキュメント作成画面にそれを共有しそうな知人・友人の連絡先を表示したりといったサービスを生み出せる。それらの利用履歴などを基に、さらに深い個人の行動を把握することも可能になる。
だが、こうしたグーグルの行動に、各国のプライバシー擁護団体や政府は強く反発した。プライバシー侵害の懸念があるにもかかわらず、グーグルは一方的にポリシーを変更しようとしたからだ。
欧州委員会は発効を延期するようグーグルに要請したほか、日本でも経済産業省と総務省が同社の日本法人に対して注意喚起を行った。それでもグーグルは方針を変えることなく、予定通りプライバシーポリシーを変更した。
宝の山を争奪する米国勢
スマートフォンやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の登場で、企業が収集できる個人の情報は、質・量ともに一気に増えた。この「宝の山」を精力的に開拓しているのが、グーグルや米アップル、米フェイスブックといった米国勢だ。
訴訟大国の米国は「プライバシー侵害で訴えられることによる金銭リスクは、どの国よりも高い」(KDDI総研の高崎晴夫取締役主席研究員)。それでも各社は、集団訴訟や悪評、政府の介入といった逆風が吹いても、情報収集の手を緩めようとしない。
アップルが3月8日に開始した音声アシスタント機能「Siri」の日本語サービスでは、利用規約にこう書かれている。「お客様の音声インプットおよびユーザデータを含む本情報を送信、収集、維持、処理および使用することに同意し、承諾したこととなります」。製品・サービスの提供や向上のためとしているが、アップルはユーザーが発した音声データをそのまま保存し利用できる。
フェイスブックは、個人の情報を手に入れるため、最もアグレッシブに動いている企業だ。同社のSNSは基本的には実名登録で、学歴や友人関係といった情報もユーザーが自ら登録できる。だが、その裏では様々な情報を収集したり、第三者に提供したりできる仕組みが仕込まれている。
例えば、あるWebサイトについて共感した気持ちを気軽に友人に伝える「いいね!」ボタンがある。フェイスブック側は、ボタンを設置したサイトの訪問履歴を収集できるようになっている。そのため欧州を中心に、「いいね!」ボタンはプライバシー侵害であるという批判が絶えない。
ユーザーのプロフィールや友人関係の情報を丸ごと取り出すことが可能な、Facebookと連動するアプリケーションやWebサービスもある。ユーザーが同意した上で利用するため手続き上は問題ないのだが、ITに不慣れなユーザーから情報を盗んでいるという批判もある。それでもフェイスブックは、精力的に個人の情報を収集・利用し続けている。
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