2012年のクラウド活用シーンが見えてきた。それが他社とのコラボレーションである。異業種や、強みの異なる同業種、ネット企業とリアル企業が、クラウドを介してコラボレーションする。
 始まったのは、二つの「巨大コラボ」だ。一つはビジネス面。数百社が一度に集まり、情報システムを利用したり共同でビジネスを展開したりする。もう一つはインフラにおけるコラボだ。社会全体の膨大な機器と情報システムが、協調動作する。いずれもクラウドが媒介となるからこそ可能になる。
 もはやクラウドは、コスト削減や業務効率化だけの道具ではない。先進事例を基に、クラウドでビジネスチャンスを広げるための勘所を探る。

(玉置 亮太)

◆クラウドで「やってみなはれ」
◆とにかく全員集合
◆クルマの「つぶやき」に集結


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クラウドで「やってみなはれ」

 「全世界統一のプライベートクラウドを構築している。買収した海外のグループ企業との相乗効果を発揮するために、不可欠な基盤を作る」。サントリーホールディングスのCIO(最高情報責任者)を務める下條泰利執行役員は、こう打ち明ける。同社が買収などで傘下とした海外企業の社員数は、主な4社で1万人。これらを含め、グループ2万5000人が協業する基盤を、クラウドで構築する。

世界規模のコラボへ

 下條執行役員が挙げる相乗効果を一言で表現すれば、買収した企業同士の「コラボレーション」のこと。商品の相互販売や共同開発、原材料の共同調達などだ。

 サントリーは、こうしたコラボの相手を、世界へと拡大する。同社は2009年に持ち株会社制度に移行し、海外企業のM&A(合併・買収)積極化とグローバル展開を加速する方針を打ち出した。この方針の下、同社は2009年以降、これまでに2社を買収した。

 目指すのは、「やってみなはれ」という創業者の言葉で表されるサントリーのチャレンジ精神を、買収した会社を含めたグループ全体で発揮し、ビジネスチャンスを広げることだ。既存の商圏にとらわれず、商機ありと分かればまずは試してみる。うまくいくならどんどん販路を拡大するし、逆に機会なしと見れば即座に撤退する。

 持ち株会社制の下、強みや商圏の異なる海外企業のコラボを促すため、2011年1月に新会社サントリー食品インターナショナルを設立した。同社は国内外の清涼飲料事業を手掛けるグループ企業を束ねる。

クラウドあってのコラボ

 サントリーが目指すコラボの規模拡大戦略は、クラウドがあって初めて可能になる。全社レベルでデータセンターのアーキテクチャーを標準化することで、グループ各社のシステムをどのデータセンターでも稼働できるようにする()。情報システムの強化によって、コラボのスピード向上や規模拡大を支援する。

図●サントリーが構築するコラボレーションの基盤<br>クラウドで全世界のデータセンターのアーキテクチャーを標準化し、仮想的な統合データセンターを構築する。その上で、買収したグループ企業のシステムを世界のどのデータセンターでも動かしたり連携したりできるようにする
図●サントリーが構築するコラボレーションの基盤
クラウドで全世界のデータセンターのアーキテクチャーを標準化し、仮想的な統合データセンターを構築する。その上で、買収したグループ企業のシステムを世界のどのデータセンターでも動かしたり連携したりできるようにする
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 仮想化技術を取り入れ、システム構築にかかるコスト削減や期間短縮を図る。今後さらなるM&Aによってコラボする企業が増えても、迅速にシステムを修整したり統合したりできる。

 サントリーは、他の国内ビール大手に先駆けて、いち早く国内のクラウド基盤を昨年末に整備し終えて、世界規模のコラボ拡大に向けたクラウド基盤作りに着手した。現在は2015年の完了を目指して、全世界のデータセンターの集約と、プライベートクラウドの構築に取り組んでいる。日本をはじめ、欧米やアジア、オセアニアのグループ企業がそれぞれ保有するデータセンターを、ドイツ、日本、シンガポール、オーストラリアの4カ所に集約する。各地にある富士通のデータセンターを使って実現する。

 サントリーは、グループ企業間のコラボ拡大を成長に欠かせない戦略と位置付ける。同社は中期の経営計画として、連結売上高を2013~2014年に2兆円(2010年12月期は1兆7424億円)、2016年に経常利益2000億円(同1008億円)を目指している。2010年12月期の業績は、国内売上高が前年同期比3.9%増の1兆3891億円。これに対して海外売上高は同65.3%増の3533億円と大幅に伸びた。クラウドによるコラボで、この勢いを加速する。


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