金融業や小売業といった企業が、メーカーのようにCTO(最高技術責任者)を置くケースが増えている。技術、なかでも特にITが、自社の競争力を左右すると考え始めたからだ。CTOのミッションは、企業の情報システム部門を統括し、ITによって新しいビジネスを生み出すことだ。日米3人のCTOへのインタビューから、CTOの実像に迫る。

(中田 敦)


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 「どうすれば東北地方の中小企業が中国の電子商取引(EC)サイトで成功できるのか。ソーシャルメディアは銀行のマーケティングに活用できるのか。銀行のCTOとして、ITを活用して新しいビジネスを生み出す策を、日々考えている」。荘内銀行と北都銀行の持ち株会社、フィデアホールディングス(HD)のCTOを務める吉本和彦取締役兼代表執行役副社長はこう語る。

 吉本氏は同社の情報システム担当役員だ。従来、情報システムの責任者といえば、CIO(最高情報責任者)を名乗ることが多かった。しかし吉本氏の役職名はCTOだ。「銀行が新しいビジネスを開拓するためには、既存システムの維持という伝統的なCIOの枠を越える必要がある」(吉本氏)との問題意識が、CTOという肩書きに込められている。

 元々CTOとは、メーカーにおけるR&D(研究開発)や製造部門の技術責任者を指していた。ところが近年、メーカー以外の企業が、ITという“技術”で新ビジネスを創出するための責任者を任命し、CTOと呼び始めている()。これは、企業にとって、ITの果たす役割が今まで以上に広がっていることを端的に示している。

図●金融や小売業などにおけるCTOの役割
図●金融や小売業などにおけるCTOの役割
研究開発部門や製造部門を持たない企業が、CTO(最高技術責任者)を置くケースが増えている。その役目は、ITを使った新ビジネスの創出だ

 CTOを置く動きは、米国の金融業や流通業で先行している。米銀最大手の米バンク・オブ・アメリカは、CTOが情報システム部門を統括しながら新ビジネスの創出に取り組んでいる。

カード会社に研究開発部門

 米シティグループでは「Chief Operations & Technology Officer(最高執行・技術責任者)」が、米ビザ・インターナショナルでは「Global Head of Technology(技術責任者)」が、米マスターカードワールドワイドは「President, MasterCard Technologies(テクノロジー部門担当プレジデント)」が、CIOとCTOの役割を担う。

 売上高が1087億ドル(2010年度)という世界最大の医薬品・医療機器卸会社である米マッケソンも2009年4月、CIOの肩書きにCTOを加えた。そのプレスリリースで同社は「サービスの品質や効率性を向上するうえで、テクノロジーの果たす役割がますます高まっている」と述べている。

 各社に共通するのは、ITによって新しいビジネスを作り出そうという姿勢だ。例えばマスターカードは2010年5月、「MasterCard Labs」という研究開発部門を新設し、今後の成長が見込める電子決済に関する研究開発を強化した。

 今や、ITの活用なくして、どんな新規事業も実現できない時代だ。マーケティングや商品企画といった「稼ぐ部門」にこそ、ITが欠かせなくなっている。にもかかわらず、CIOの役割は「ITによるバックオフィス業務の改善・改革」や「情報システムの維持・開発」にとどまることが少なくない。売り上げの向上に直結するIT活用が必要となったときに、求められる役職はCTOだ。

 日本にもCTOを置く企業がある。例えばフィデアHDや住信SBIネット銀行だ。この2社に米アマゾン・ドット・コムを加えた3社のCTOに、新ビジネスへの意気込みとCTOの役割について聞いた。


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