経営や現場の意思決定を支援するのがデータウエアハウス(DWH)の役割だ。しかし、「遅い」「データが古い」といった理由から、使われなくなったDWHは少なくない。こうした問題を克服し、ビジネスの最前線における「真実のデータ」を即時に利用者に届けるリアルタイムDWHが現実のものとなり始めている。先進企業の取り組みから、真実のデータをつかむ秘訣が浮かび上がった。

(島田 優子)

◆北陸コカ・コーラの挑戦
◆欲しいのは真実を示すデータ
◆二つの「速さ」を追求する
◆見せる情報はIT部門が決める


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 売れ筋商品は1日分、その他の商品は3日分──。これは北陸コカ・コーラボトリングが、ここ1年で達成した在庫の削減量だ。北陸コカ・コーラは富山、石川、福井、長野の4県を対象に飲料品の製造・販売を行っている。2010年度の売上高は538億円だ。

 「賞味期限がある飲料品にとって、1日分の在庫削減はとても効果が高い」。北陸コカ・コーラのシステム子会社であるヒスコムの渡辺剛幸取締役システム部長はこう強調する。在庫期間が長くなると、出荷時点で賞味期限が残り少なくなる。賞味期限が短い商品は、引き取らない取引先もある。

 在庫を最適にコントロールすることは同社にとって課題の一つだった。ただし、自動販売機だけでも3万台以上を抱え、取引先は5万を超える。欠品なく、かつ余剰在庫を抱えないという最適な在庫量の実現はそう簡単ではない。

 この状況を打破し、在庫の削減に寄与したのが、月間2100万明細の全社データを即座に分析できるデータウエアハウス(DWH)だ。このDWHの構築により「これまで理想として描いてきたデータ活用を実現できた」と渡辺取締役は話す。

随時変動する在庫を捕捉

 在庫削減に向けた理想のデータ活用とは、発注直前までの在庫や販売データを活用した発注支援の実現だ。各拠点の発注担当者に最適な発注量を提示する仕組みを作った()。

図●北陸コカ・コーラボトリングが在庫削減を達成した仕組み<br>販売や在庫の状況をリアルタイムで発注量に反映することで全社的な在庫の削減を達成した
図●北陸コカ・コーラボトリングが在庫削減を達成した仕組み
販売や在庫の状況をリアルタイムで発注量に反映することで全社的な在庫の削減を達成した
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 同社のDWHには、受発注や物流に関するデータが随時入ってくる。3万台のうち6000台の自動販売機は通信モジュールを搭載し、月間500万件以上の販売データを基幹系システムに送ってくる。卸や小売りといった取引先は、EOS(電子発注システム)を通じて発注データを送信。発注時間は取引先によって異なるので、販売や在庫データは随時変わる。

 発注する直前の在庫データをDWHに反映することで、過不足のない発注量を算出し、発注担当者に提示することが可能になった。発注量は、発注直前の拠点の在庫量や自動販売機の販売量などを基に算出する。前年同日の販売量といった時系列データや、「拠点ごとに持つべき在庫量」といった北陸コカ・コーラ本社が決定した数値も加味する。

基幹系DBとDWHの統合で実現

 リアルタイムのデータ活用を追求した北陸コカ・コーラが行き着いたのが、基幹系システムのデータベース(DB)とデータ分析用のDWHを同一筐体に統合することだった。渡辺取締役は、「先行事例はなかったが、効果は大きいと判断した」と話す。

 一般的なDWHの形態では、同社が求める発注支援の仕組みは実現できなかった。通常のDWHの場合、基幹系DBのデータをETL(抽出・加工・転送)ツールを利用し分析用データに加工して、バッチ処理でDWHに転送する。加工と転送にかかる時間の分、利用者に届くデータの鮮度は落ちる。

 リアルタイムDWHを実現するためにヒスコムは、09年9月に日本オラクルのDB専用機「Oracle Exadata Database Machine」を導入した。Oracle ExadataはハードウエアにDBを組み込み、高速なインフィニバンドで内部を接続。キャッシュやパラレル処理を駆使して高速処理を実現する。ヒスコムは、基幹系システムのDBと、2000年代前半に構築したDWHをOracle Exadata上に移行した。基幹系システムのDBの移行をすべて終えたのは11年3月末である。


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