パブリッククラウドを企業の競争力強化に生かす時が来た。グローバル規模で標準化されたサービスや膨大なコンピューティングリソースが、企業情報システムを進化させる。今、システム部門に求められる役割は、ビジネスの重要度やシステムの負荷を見極め、クラウド活用を推進する「クラウドの目利き」だ。基幹業務をクラウド化した先行企業の取り組みと、そこから見えた活用の鉄則、基幹業務適用の現実解となる“ハイブリッド型”クラウドへの対処法を明らかにする。

(高橋 秀和)

◆先行3社に見る手綱さばき
◆見えてきた五つの鉄則
◆ハイブリッド型が現実解に


【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ3月17日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 インターネットを介し、世界のどこからでも同じサービスのシステムにアクセスできる。必要なときに必要なだけ、安価で処理性能が高いシステムを手に入れられる。これらパブリッククラウドのメリットを、基幹系の業務に取り込むユーザーが現れた()。

図●基幹業務に広がるパブリッククラウドの利用<br>基幹業務システムの移行や構築にパブリッククラウドを活用することで、グローバル規模の標準化や競争力強化につなげる取り組みが出てきた
図●基幹業務に広がるパブリッククラウドの利用
基幹業務システムの移行や構築にパブリッククラウドを活用することで、グローバル規模の標準化や競争力強化につなげる取り組みが出てきた
[画像のクリックで拡大表示]

 パナソニックは生産管理や間接材購入といった基幹系システムに、鹿島は建設プロジェクトに必須の解析システムに、ジー・モードは携帯向けゲームの配信システムに、パブリッククラウドを選んだ。

 3社に共通するのは、クラウドに不足する機能やリスクを見極め、基幹系に活用する工夫を見いだす手綱さばきの妙だ。パブリッククラウドのサービス内容を調べ抜いたうえで、巧みに乗りこなす。パブリッククラウドが発展の途上にある今だからこそ、システム部門の手腕がものを言う。まずは、基幹業務への活用を実施した先行ユーザー3社の取り組みを見ていこう。

パナソニック
生産管理もクラウドへ

 クラウド利用のガイドラインを作り、基準を持ってクラウド活用を進めるのがパナソニックだ。

 「パブリッククラウドを評価する全社統一のガイドラインを制定することで、基幹系を含めたシステムをクラウド化する道筋をつける」。パナソニックの村田賢一情報企画グループ政策・制度チームリーダーは、ガイドライン策定の狙いをこう語る。

 同社は2011年4月に間接材の調達システムを、2012年4月以降に基幹系である生産管理システムを米オラクルのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に置き換える。これらSaaS導入に向けて作成したのが、パブリッククラウド評価ガイドラインだ。

 同ガイドラインに従って世界中の拠点で同じサービスを利用できるようにし、グローバルで業務を標準化する。同時に、システム部門の負荷軽減を図る。

3ステップで採用可否を決める

 パナソニックのパブリッククラウド評価ガイドラインは3ステップから成る。対象システムで利用するデータとクラウドサービスの特性を見極めるステップ1、セキュリティやコンプライアンス(法令順守)を評価するステップ2、クラウドサービスの機能や性能などを評価するステップ3だ。

 まずステップ1では、対象システムで「社外に出せない機密情報は扱わないか」「社内システムとの大量データ交換が発生しないか」を評価する。1年後にSaaSに移行予定の生産管理システムでは、機密情報を含むプロセスと、そうではないプロセスがあることが分かった。

 機密情報を含むのは、生産管理の中で「“イタコナ”の要素が入る業務プロセス」だ。イタは「板」で板金や基板、コナは「粉」で樹脂材料を指す。商品の原価を構成する部品であり、企業の競争力を左右するため、この情報を含むプロセスは社内にとどめる。

 これ以外の、SaaSが用意する一般的な生産管理の業務プロセスのみクラウドサービスで置き換えるという方針だ。

 続くステップ2では、セキュリティとコンプライアンスの妥当性を検討する。クラウド事業者が別の事業者にデータ保管を再委託していないかや、海外の捜査当局による機材の取り上げ(接収)の可能性を検討する。

 このステップ2の厳格さを象徴するのが、クラウド事業者のデータセンターは「システム責任者の実地確認が基本」という規定だ。海外のデータセンターであっても、システム開発の責任者が現地に飛ぶ。「海外拠点の従業員に確認させるだけでは足りない。ものづくりに例えれば、クラウドサービスはシステムの“部品”だ。担当者が部品の品質・コスト・納期に責任を持つのは当然」(村田チームリーダー)という判断だ。

 ステップ3は、システムの要件を固めるとともに、クラウドサービスの機能や性能のSLA(サービス・レベル・アグリーメント)を、個別に詰める。このステップでは、クラウドサービスに求めるSLAの要求にかかる費用対効果も判断する。

 その一例が、障害対応だ。パナソニックは自社のデータセンターを選定する際の要件として「障害対応の初動が30分以内」というSLAを規定している。オラクルのSaaS利用をステップ3で検証した際に、「日本語による障害対応を30分以内」とするSLAを盛り込むことを検討した。ただし最終的には、同SLAは費用対効果が見合わないと考え、締結を見送った。


続きは日経コンピュータ3月17日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。