基本は無料、高機能版は有料──。こんなビジネスモデル「フリーミアム」に基づく企業向けクラウドサービスが相次ぎ登場している。時間とカネをかけずに、自社の情報システムを革新するツールとして浮上してきた。

 フリーミアムのクラウドサービスは、無料でもれっきとした“商用サービス”。企業利用に十分な機能と品質を備え、運用やサポートも提供される。ラインアップも情報共有から情報系全般、開発基盤へと拡大しつつある。著名なサービスから無名のサービスまで、フリーミアムの企業向けクラウドサービス16種の実力を検証する。

(玉置 亮太)

◆大手ベンダーが相次ぎ参入
◆消費者向けが企業向けに進化
◆新興企業はユニーク発想で勝負
◆フリーミアム使いこなしの五カ条


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 「既存システムを補完する情報インフラとして定着した。効果や品質も十分」。建設技術コンサルティングを手掛ける日本工営 技術本部技術企画部情報基盤センターの小松淳センター長は、同社が使う「フリーミアム」のクラウドサービスをこう評価する。

 同サービスを活用して日本工営が構築したのは、全社の情報共有の基盤システムだ。国内外の事業拠点を結んだ、国際電話やオンライン会議、社員間の情報共有などに使っている。同社は世界80カ国で事業を展開する。

 日本工営にとって、この基盤システムの構築・運用コストは限りなくゼロに近い。毎月の国際電話料金を100万円以上削減。オンライン会議システムも、従来は初期費用だけで数十万円かかっていたところを、タダ同然で構築できた。

 同社が利用したのは、フリーミアムと呼ぶ新たなビジネスモデルに基づくサービスである()。基本的な機能を無料で提供し、より高い機能やスペックを求めるユーザー向けに有償版を用意する。

図●日本工営が活用するフリーミアムサービス
図●日本工営が活用するフリーミアムサービス
世界80カ国で事業を展開する同社は、無料またはタダ同然のクラウドサービスを活用。月間100 万円以上の電話代を削減するなど、効果を上げている

 企業で十分に使えるクラウドサービスを、無料またはタダ同然で賄う。なおかつ、これまでにないスピードで情報化を実現する。今、フリーミアムが企業システムを変えようとしている。

利用者を増やして採算を得る

 オープンソースソフト(OSS)など、無料で利用できるソフトやサービスはこれまでにもあった。フリーミアムに基づくクラウドサービスは何が違うのか。大きく2点挙げられる。

 まず、利用期間に制限がない。利用期限を設けることが多い無料体験版と異なり、フリーミアムに基づくサービスは無料のまま使い続けることができる。

 というのも、フリーミアムの基本は無料版の利用者を拡大することにあるからだ。無料版の利用者を増やして、一定の割合を有料版へ移行させる。およそ5~6%が相場だ。この有料版の利用者から得た収益や、無料版に付けた広告収入などで採算を取る。

 それには「無料版の利用者を拡大することが大前提となる。無料でも問題なく使えるサービスを提供し続けなければ、ビジネスモデルそのものが成り立たない」と、TISの社内ベンチャーであるSonicGardenの倉貫義人カンパニー長は説明する。

 二つめの違いは、商用ソフトやサービスと同様に、サービスの提供元が運営や利用者サポートに責任を持つことだ。OSSを使う場合は、専門ベンダーにサポートを依頼するにしても、基本的に自己責任となる。これに対しフリーミアムのサービスでは提供元企業が顧客サポートを提供する。無料とはいえ“商用”のサービスであるからだ。「有料版のサービスの一部を無料で提供していると捉えると理解しやすい」(戦略系コンサルティング会社ローランド・ベルガーの大野隆司パートナー)。

クラウドの普及が後押し

 フリーミアムを成り立たせるために、大きな役割を果たしているのがクラウドだ。

 そもそもフリーミアムとクラウドは、非常に相性がよい。無料版で多数の利用者を集める必要があるフリーミアムでは、サービスの運営やサポートにかかるコストをいかに削減するかが課題になる。「サービスを動かすシステム基盤を共用するクラウドならば、スケールメリットが働いてコストを低減しやすい」(フィードパスの後藤康成 取締役兼CTO)。

 フリーミアムのサービス自身を、別のフリーミアムのクラウドサービスを使って開発・運用するケースもある。初期投資を低く抑えられるのがメリットだ。利用者はフリーミアムのメリットとともに、「すぐ使える」というクラウドのメリットを享受できる。


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