もう新システムを作らない――。これが2011年のシステム構築の姿だ。古くなって傷んだり、住む人の構成や年齢が変化したりするのに合わせて家屋をリフォームするのは、日常生活ではごく一般的。その考えをITにも適用するのが、今年のトレンドになる。

 「ITリフォーム」とは、ビジネスの変化に合わせてクラウドサービスを活用しつつ、既存のアプリケーションを最新の状態に保つことだ。企業のシステム部門が「システム開発者」から「サービス提供者」に変身するための考え方であり、最小のIT投資で最大のビジネス効果を得る方策でもある。2011年におけるシステム部門の役割は、利用部門や経営層がビジネスを遂行するのに必要な「サービス」を提供・維持することがメインになる。ビジネスの変化にサービスを追随させること、つまりアプリケーションやサービスの保守は、企業にとって競争力の源泉だ。

(井上 英明)

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 「2011年のうちにはシステム刷新が完了する。そうすれば、ビジネスの変化に合わせてアプリケーションの保守作業をより迅速に、より低コストでできるようになる」。日産自動車の須田俊彦 グローバル情報システム本部一般管理システム部部長は自信を見せる。刷新中のシステムは、自動車部材の調達システム。全世界の従業員が利用するものだ。

 刷新の最大の狙いは、既存アプリケーションの機能強化や追加、いわゆる「保守」を効率化することである。既存アプリケーションは、業務への貢献度は高いが、保守にコストや時間がかかっていた。とはいえ、「現時点では利用部門から機能や性能、品質についての不満は上がってきていない」(須田部長)。こうしたアプリケーションについては、多額の刷新費用を工面するのが難しい。

 そこで、日産は既存アプリケーションを全面的に流用することにした。機能など利用部門に見える部分では現行仕様を踏襲する一方で、将来に備えてアプリケーションを保守しやすくする作業を施した。「不要なプログラムやロジックを削除したり、設計書を最新の状態に整備したりした」(成田浩グローバル情報システム本部一般管理システム部主任)。

 既存アプリケーションの活用によって、刷新費用は全面再構築する場合の3分の1以下に抑えた。さらに、刷新費用を上回る保守コストの削減効果が得られる見込みだ。保守のスピードを高められる手応えもつかんでいる。

既存アプリの価値を見直す

 日産が保守の強化にこだわるのは、それが企業の競争力に直結するからだ。保守とは言い換えれば、ビジネスの変化にシステムを追随させる「サービス」の提供である。

 日産に限らず、既存アプリケーションの価値を見直し、保守業務を強化する企業が増えている。近畿日本ツーリスト(KNT)は基幹系システムの刷新にあたって、既存のアプリケーションを全面的に流用した。それとクラウドサービスを組み合わせて、新規に開発するプログラムを最低限に抑えた。

 大塚製薬は、iPad向けの画面作成に、携帯電話向け画面を流用した。オリンパスは、既存アプリケーションの部品化によって、複数の事業部門で使える「共通ソフト」を増やしている。

 各社に共通するのは、「1日でも早く、1円でも安く、経営層や利用部門の期待に応えるシステムを整備したい」「長年にわたって、最新の状態を維持できるようにしたい」という思いである。これには、システム部門を取り巻く現状が大きく関係している。

 システム部門の役割は年々重要になっており、それにつれて課題も増えている()。ビジネスの急激な変化への迅速な対応、ITコストの削減はもちろん、最近では海外展開の支援、さらにはITを生かした新規事業の創出まで担う必要も生じている。

図●システム部門が直面する課題と、それらの解決策であるITリフォームと全面再構築との比較
図●システム部門が直面する課題と、それらの解決策であるITリフォームと全面再構築との比較
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 にもかかわらず、活動の原資となるIT予算は2011年以降も引き続き削減ペースが続きそうだ。「IT投資が10年前の3分の1まで下がった今、費用をかけて全面再構築するのは現実的ではない」。KNTの瓜生修一 経営戦略本部IT戦略部長はこう打ち明ける。いかに少ない投資で効果を出すか。こうした課題の解決策として、既存アプリケーションの活用に注目が集まっているわけだ。


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