「アウトソーシング契約の更改率は、ほぼ100%だ」。日本IBMの福地敏行執行役員常務は、こう言い切る。実際、日本IBMはこの3年を見ても、分かっているだけで18社のユーザー企業と大型契約を更新・締結している。「契約当初に掲げたコスト削減目標を達成できた」「更新に伴い、運用業務の委託範囲を広げるところもある」。システムの開発から運用までを10年間にわたって一括して引き受ける大型アウトソーシングの成果を、福地常務は強調する。 だが、ユーザー企業の評価は違う。本誌の取材に、複数のシステム責任者が「期待したほどコストは下がらなかった」「アプリケーション開発・保守のスピードが落ちた」と明かした。各社の不満を象徴するのが、更新契約の「範囲」と「期間」だ。範囲については、開発・保守を外したり、あるいは縮小する動きが目立つ。代表例が、JFEスチールや東急不動産である。期間については、先の18社のうち、10年規模の契約を結んだのは住友金属工業だけ。残る17社は大半が5~7年だ。 クラウド活用を前提に、システム運用だけを5年間任せる──。10年以上にわたって大型契約を遂行してきたユーザー企業、ITベンダー、さらには調査会社やコンサルティング会社への取材を通じて、本誌が結論付けたアウトソーシングの理想形である。「フルアウトソーシング」のビジネスモデルが日本に上陸してから18年、今明らかになったアウトソーシングの真実に迫る。
(吉田 洋平)
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惰性の更新、自前回帰の機会逃す
三井生命保険
「次のチャンスは2015年3月。その時こそ、アプリケーションの機能強化・変更といった保守業務を自前に戻すべきだ」。三井生命の複数の関係者はこう主張する。
三井生命は、日本IBMにシステムの開発・保守と運用を全面的に委託している(図)。2015年3月というのは、現在の6年契約の期限だ。開始時期は2009年4月。2010年までの10年契約が満了を迎える前に更新した。日本IBMは更新の際に「より高効率なサービスを提供していく」と発表している。ところが、先の関係者によれば、「最初の10年契約の過程で、保守コストをもう下げられないという壁にぶつかっていた」。
三井生命の最大の不満は、保守業務を委託したにもかかわらず、それを引き受けた日本IBMに業務知識が蓄積しないことだった。日本IBMは保守業務を、エムエルアイ・システムズ(MLI)や、NTTデータなどに再委託していた。MLIは、三井生命が51%、日本IBMが49%出資して2000年9月に設立したIT企業である。「日本IBMは、MLIなどに丸投げするだけで2割程度のマージンを得ている」との声が、三井生命の社内で強まっていた。
「保守は企業競争力の源泉」
ただし、その責任は三井生命自身にもあった。各社の役割分担は、2000年の契約時に、三井生命と日本IBMで決めたことであるからだ。日本IBMは、契約で決めた体制に基づいて決めた業務を遂行し、1割のコスト削減という当初の目標もクリアしている。
もっとも、三井生命のシステム部員の一部は、保守を委託したことに反省の思いを抱いていた。
そうしたこともあり、2008年ごろに三井生命のシステム部門は、「保守の自前回帰や委託先の変更を検討する」との方針をまとめた。日本IBMとの契約で、「満了の1年前に更新もしくは終了を判断する」と決めていたため、それに備えての行動である。検討の際は、複数のコンサルティング会社の意見なども参考にした。
この方針には、コスト削減とは別の、システム部門の思いが込められていた。「アプリケーションの保守業務は、企業の競争力の源泉であり、システム部門が果たすべき中核業務である」(関係者)というものだ。
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