国内総生産(GDP)で日本を抜き世界第2位の経済大国となった中国。成長の原動力は、大胆不敵ともいえるIT活用力だ。企業は失敗を恐れず、社外との摩擦も厭わず、ITを駆使して一心不乱に上を目指す。政府は国の競争力強化に向けてリーダーシップを発揮する。成長の恩恵は自国が得るとばかりに、産官タッグで世界に挑む。そこには、“失われた20年”を通じて日本企業がなくした貪欲さが存在する。現在の中国は、高度経済成長期の日本の姿である。

 日本企業も、負けずに立ち向かわなければならない。国内市場の低迷に苦しむ日本企業にとって、拡大を続ける13億人市場への進出は必要不可欠である。尖閣諸島問題のような逆風が一時的に吹いても、その重要性は揺るがない。現地取材を通じて、中国企業と政府の取り組み、日本企業の奮闘を追う。

(中井 奨、山端 宏実)

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 上海-茨城間が4000円──。中国の格安航空会社(LCC)、春秋航空が強烈な価格攻勢を仕掛けている。格安のカギはIT戦略にある。基幹系システムを自前で開発することで、ITコストの比率を競合の15%程度に抑えている。

 「妻の里帰りには春秋航空を使うことに決めた」。中国人の妻を持つ埼玉県加須市の自営業、斉藤昌一さんは満足げだ。7月28日、春秋航空の初フライトが茨城空港に到着した(写真)。斉藤さんは、その折り返し便に搭乗した妻を見送った。

写真●茨城空港に着陸した春秋航空機(右)と、上海の本社(左)
写真●茨城空港に着陸した春秋航空機(右)と、上海の本社(左)
(写真左上、右:町川 秀人)

 4000円という金額が話題に上る春秋航空だが、IT戦略も価格以上に特徴的だ。春秋航空は、航空業務を支える基幹系システムをすべて自前で構築している。

 同社の基幹系システムは、運航管理、整備、搭乗管理、乗務員管理、予約・発券など七つのシステムからなる。7システムのアプリケーションの開発規模は、合計500万ステップ。78人のシステム部員が、これらの開発と保守、運用、顧客サポートまでこなす。

 春秋航空がシステムの自前開発を貫く理由は「安く済むから」(王正華董事長)。春秋航空の2009年のITコストは1億4000万円強。売り上げに占める割合は約0.6%である。

 競合他社の同割合は4%を超える。というのも、中国の航空業界では、ほとんどの会社が、予約・発券システムに中国民航信息網絡(トラベルスカイ・テクノロジー)という専業ベンダーのパッケージソフトを使っており、航空会社は航空券の売り上げの約4%をトラベルスカイに支払わなければならないからだ。内訳は、「システム利用料」が約1%、「代理手数料」が約3%である。春秋航空のITコストの比率は競合他社の15%程度ということになる。

 仮に春秋航空がトラベルスカイのパッケージを使うとすると、ITコストは単純計算で現在の7倍以上に膨らんでしまう。「中国東方航空などの大手は、トラベルスカイに毎年30億円前後払っている。無駄な出費だ」。春秋航空のシステム部門「信息技術部」を率いる鄭連剛総経理は言い切る。

サーバーは9割がデル製

 IT投資を抑えるため、春秋航空は動作プラットフォームに安価なPCサーバーを採用している。サーバー約100台の9割超がデル製だ。OSは大部分がオープンソースソフトのLinuxである。

 さらに興味深いのは、自前開発を担うシステム部員78人のうち、ほかの航空会社でシステム開発に携わった人が一人もいないことだ。部員の9割以上が現地のITベンダーの出身。システム開発に長けた航空業界の素人だけで基幹系を構築しているわけだ。


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