いま、日本の企業情報システムに新型オープンソースソフトウエア(OSS)の波が押し寄せている。

 クラウドコンピューティングの世界で磨かれた技術をベースにする「クラウド育ち」のOSSである。代表格が分散バッチ処理ソフト「Hadoop」だ。キー・バリュー型データストア(KVS)や、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)構築ソフトなどもある。

 グーグルをはじめとするクラウド事業者は、膨大な数量のサーバーやデータを、いともたやすく操る。彼らがクラウドを実現するために開発した大型の基盤ソフトが次々とOSS化されている。Hadoopのマスコットキャラクターは「ゾウ」。まさに、そんな巨象たちを、一般の企業も飼いならせる時が来たのだ。

 今やOSSは、商用ソフトにはない最新技術を備える存在になった。次なる主役であるクラウド育ちのOSSは、“本物のクラウド技術”を企業情報システムにもたらし、データ処理の常識を一変させようとしている。その実態に迫る。

(中田 敦)

◆クラウド技術、OSSとして企業に浸透
◆企業への導入進むHadoop、ベンダーのサポートも充実
◆続々登場するクラウド育ち、落ちないDBを実現
◆日本からも新型OSS、ネット企業が技術の発信源


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 近ごろ東京の先端的なITエンジニアの間で流行するもの──。それは「Hadoop」の勉強会だ。

 オープンソースソフトウエア(OSS)の分散バッチ処理ソフトであるHadoopを使って、どうアプリケーションを開発すべきか。ある時は楽天やヤフーの会議室で、またある時は東京・神保町の貸し会議室で、様々な企業のエンジニアが、時には100人以上も集まり、白熱した議論を交わす。

 大手ITベンダーも動き出した。日本IBMやNTTデータ、電通国際情報サービスがHadoopを使ったシステム構築サービスを既に開始した。このほか、日本ヒューレット・パッカードもまもなくHadoop関連ビジネスを日本で本格展開する予定だ。

 情報処理推進機構(IPA)は今年9月6日、「社内向けクラウド構築のために活用できるソフトウエアカタログ」を公開した。これは、一般企業がHadoopなどの新型OSSを導入する際の目安を示したものだ。Hadoopなどの実力を、「サポート体制」「成熟度」「機能」などの観点で評価した。

商用ソフトに無い魅力

 Hadoopのような新型OSSの共通点は、クラウドで使われている技術を基にした「クラウド育ち」であることだ()。大手クラウド事業者は、数十テラ~数ペタバイトというデータを安価に処理するために、システム基盤ソフトを自社開発してきた。これらの技術を外部に公開したのが「クラウド育ちのOSS」だ。

図●「クラウド育ち」のOSSがこれからの主役
図●「クラウド育ち」のOSSがこれからの主役
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 これまで企業での導入が進んでいたOSSは、LinuxにせよMySQLにせよ、機能面で先行する商用ソフトを追いかけていた、と言えるだろう。クラウド育ちOSSは違う。クラウド事業者は、「自社のために」「ほしい技術が外部に無い」といった理由で、基盤ソフトを自らの手で開発してきた。こうした開発背景から、クラウド育ちのOSSは、商用ソフトにない機能や特徴を備えている。

 例えば、数テラ~数ペタバイトのデータを高速・安価に処理したり、ハードウエア障害が起きてもダウンしないDBシステムを運用できたりする。さらに、人気の高いIaaS「Amazon EC2」に匹敵する機能を備えた仮想マシン管理環境を構築することも可能だ。

 「従来のOSSは、枯れた技術を安価に活用するものだった。これに対してHadoopは、新たな領域を切り開くソフト。今、OSSが新たな魅力を持ち始めた」。NTTデータ基盤システム事業本部の濱野賢一朗氏は力説する。

 クラウド育ちのOSSは、今後もさらに種類が増えそうだ。日本でも、グリーやディー・エヌ・エー、ミクシィ、楽天といったネット企業が、自社で開発したソフトを次々とOSS化している。ネット企業は最新のITを導入するため、自社でOSSの開発に取り組んでいる。

 それではクラウド育ちのOSSで、何ができるのか。さらにクラウド育ちのOSSはなぜ登場し、これからどのような進化を遂げようとしているのか。早速見ていこう。


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