本当のクラウドは、単なる仮想サーバー貸しとは異なる。クラウドコンピューティングのパイオニア的サービスである「Amazon EC2」と、日本の同種サービスを比較すると、その差は明白だ。EC2が示す“あるべき最先端クラウド”の八つの条件を示す。

(中田 敦)


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 米アマゾン・ドット・コムは、小売業のローコスト経営と顧客第一の精神を、ITインフラサービスに持ち込んだ。これが、子会社の米アマゾン・ウェブ・サービシズ(AWS)が提供するAmazon EC2と、日本の一般的な仮想サーバー貸し(VPS、仮想プライベートサーバーと呼ばれる)の間に様々な違いをもたらした。

 相違点は、1)料金体系が柔軟、2)サ ービスの種類が豊富、3)管理用APIを公開している、4)セキュリティ設定が柔軟、5)耐障害性が高い、6)ストレージの機能が豊富、7)商用ソフトを簡単に利用できる、8)大規模分散処理技術が利用できる、の8項目である。

 その姿はほかのVPSと大きく異なる。そして、EC2こそがクラウドの標準になりつつあることを強く意識すべきだ。

1)料金体系が柔軟

 仮想マシンサービスであるAmazon EC2と日本のVPSの最大の相違点ともいえるのが料金制度である。EC2の料金は1時間単位の従量課金だ。

 仮想サーバーを停止している間は課金されない。例えば、就業時間中である午前9時から午後5時までの8時間しか運用しないなら、月当たりの料金は24時間運用時の3分の1だ(図1)。

図1●使った時間しか課金しないAmazon EC2
図1●使った時間しか課金しないAmazon EC2

 時間帯によって稼働率が増減するシステムは少なくない。業務システムであれば昼間の時間帯に、消費者向けのシステムであれば夕方や夜間、休日にアクセスが集中する。

 EC2では、アクセスが集中する時間帯だけサーバーを増やすことが可能だ。しかも、運用するサーバーの増減は自動化できる。

 日本のVPS事業者で時間課金を実現しているのは、2010年2月からニフティが開始した「ニフティクラウド」だけだ。ニフティクラウドの料金は1時間当たり12.6円でEC2に近いが、仮想マシンを停止している時間も1時間当たり5.25円の料金が発生する。

 日本にはEC2の1時間当たりの料金に24を掛けて1日当たりの料金とし、それに30を掛けて“EC2の月額料金”と称し、「自社のサービスのほうが月額料金は安い」と訴えるVPS事業者が存在するが、この比較は正確ではない。

 さらにEC2には1年または3年単位で一定額を支払うと、時間当たりの利用料金が3分の1になる「Reserved Instance」という割引制度がある。図2で示すように、24時間運用した場合の年額料金は、Reserved Instanceによっておよそ3分の2に減る。

図2●Amazon EC2の割引プラン
図2●Amazon EC2の割引プラン
Amazon EC2には、通常の従量課金制度以外にも、一定額を支払うと時間当たりの料金が3分の1になる「Reserved Instance」や、EC2のキャパシティーに余裕があるときに利用者が入札方式で料金を支払って利用する「Spot Instance」といった割引プランがある

 09年12月には、別の割引制度である「Spot Instance」も始まった。これはEC2の余剰リソースを、入札方式で利用者に安く使わせるというものだ。

 利用者は仮想マシンを使用する際に、支払う料金の上限を設定する。利用料金は時間帯によって変動するが、09年12月から10年1月の実績では、正規料金の4分の1から3分の1程度だった。

 上限を超えた場合は、仮想マシンが自動的に停止する。一時的なデータ処理を想定したサービスである。

 EC2の料金には「規模の経済」が働く。EC2やストレージサービス「S3」のネットワークトラフィックは、2008年春の時点でアマゾンの本業である小売りサイト「Amazon.com」のトラフィックを上回った。

 AWSのシニア・エヴァンジェリストであるジェフ・バー氏は当時、「EC2/S3のトラフィックが増えることで、ネットワーク回線のさらなるボリュームディスカウントが可能になり、本業であるAmazon.comのネットワークコストも低下した」と喜んだ。

 アマゾンはEC2やS3を提供することで、Amazon.comのITインフラコストも節約しているわけだ。外部に提供するサービスのためにデータセンタ ーを建造する必要がある専業VPS事業者と比べて、コスト構造上も有利である。


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