景気回復の兆しが見えてきた。景気悪化に対して“無力”だった情報システムを考え直すチャンスが到来している。日経コンピュータは、次世代のシステムのコンセプトとして「見せる化」を提唱する。あらゆるステークホルダー(利害関係者)に対し、必要な情報をタイミングよく見せることにより、企業の競争力の強化を目指す。従来、企業は社内のデータを一元管理し自社の状況を「見える化」するためにIT投資を進めてきた。だが昨年からの景気悪化に対して、見える化だけでは太刀打ちできなかった。

(島田 優子)

◆「見せる化」で反転攻勢
◆ガラス張りで迅速な企業へ
◆企業活動を社会に見せる


【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ7月8日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 景気が底を打つ。日経コンピュータが経営者らに対して実施した経営/IT・投資戦略調査では、2009年中に景気が底をうつと見る回答が半数近くに達した(6月24日号特集を参照)。

 情報システム部門は今、景気回復側面を支える“次のシステム”を考える時期に来ている。「来年度の予算の申請に向け、次期システムの内容を検討する企業が出てきている」こう指摘するのはNEC第一製造ソリューション事業部CPCソリューショングループの松原芳明部長だ。

 昨年来の経営状況の悪化を繰り返さないために経営者が重視するのは迅速な意思決定だ。日経コンピュータの経営/IT・投資戦略調査では、33.5%の経営者が景気回復局面で重視する項目として挙げている。

 同時に43.8%の経営者がITに期待するのは、「情報を収集・分析して見える化する」機能だ。そこで日経コンピュータでは、企業の反転攻勢を支援するシステムのコンセプトとして「見せる化」を提案する()。

図●景気回復に向け、次期システムには意思決定の迅速化支援が求められている
図●景気回復に向け、次期システムには意思決定の迅速化支援が求められている
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 「見える化」を別の言葉で言い換えただけではないか―。こう思われる方もいるだろう。だが「見える」から「見せる」に発想を変えただけで、全く新しいシステムのあり方が見えてくる。

 見せるためには「誰に、何を、どのタイミングで」伝えるかを考える必要がある。これが見せる化というシステム発想の強さだ。タイミングよく、適切な担当者に正しい情報を伝えれば、意思決定も行動も迅速化する。

 「単に見えるだけではアクションにつながらない」とIBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)フィナンシャル マネジメントの赤阪正治執行役員も指摘する。必要な意思決定やアクションにつなげるためには、システム側から能動的に、必要な情報を必要なタイミングで必要な人に見せなければならない。漫然と見えるだけでは、情報を見過ごしたり、事の重大性に気付かなかったりする場合があるからだ。

 さらに、従来の見える化では、情報を見る人は経営者など企業内の上位の意思決定者に限られることが多かった。しかし、本来なら営業現場や生産現場の担当者、取引先などの外部パートナーにも適切な情報を適切なタイミングで見せる必要があるはずだ。また今後は、消費者や地域社会などに対しても、CO2削減などの企業活動を的確に見せていかなければ、企業の存続や成長は覚束なくなる。つまり見せる化とは、企業活動をガラス張りにすることで競争力の強化に資するというコンセプトである。

既存のIT化では先が読めなかった

 従来型の見える化を支援するシステムだけでは足りないことは、今回の危機で明白になった。

 昨年秋からの景気の悪化は企業を直撃した。トヨタ自動車の08年度は4610億円の営業赤字。07年度は2兆2704億円の営業黒字だった。1年間で2兆7314億円の利益が吹っ飛んだ計算だ。

 トヨタ自動車はリーマンショックの2カ月後である昨年11月に、09年3月期の営業利益の予想を1兆円下方修正した。それでも当時は6000億円の黒字を見込んでいた。そして4カ月後、トヨタ自動車は71年ぶりの営業赤字に転落した。

 日本を代表するトヨタ自動車でも景気の変動を読み切れなかった。いかに急激に経済環境が悪化したかが分かる。

 ERP(統合基幹業務システム)パッケージや、CRM(顧客情報管理)システム、SCM(サプライチェーン管理)システムの導入といった、基幹業務のIT化を推進している企業は、景気の変動を察知することができたはずだった。SCMシステムで需要の変動を予測すれば過剰在庫は防げただろう。ERPパッケージに蓄積する販売データを追えば、鈍っていく消費が見えたはずだ。

 業務システムに蓄積した情報を「見える化」するために、DWH(データウエアハウス)で情報を管理したり、蓄積した情報を分析するためにBI(ビジネスインテリジェンス)ソフトを導入したりしている企業もあった。

 「リーマンショックは天災のようなものかもしれない。だがリーマンショックが実需の縮小に結びつくまでには1~2カ月のタイムラグがあった。本当に情報が見えていれば、この間に手が打てたはずだ」。プライスウォーターハウスクーパース コンサルタントの椎名茂常務執行役員はこう見る。もちろん情報システムだけが悪かったわけではないが、急激な環境変化に企業は対応できなかった。


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