「こんなことが実現できたら皆が喜ぶだろう」「こうすれば仕事がもっと早く進むのに」。仕事で忙しくしている最中であっても、こう思うことが誰しもある。そうしたとき、同じく忙しい同僚に話しかけてみる。「私も同じことを考えていました」と同意してくれたら、もう少し話を続けよう。「いえ、こうしたほうがもっといいと思います」と言われたら、軽く議論してみてはどうか。日ごろの業務とは違う、プロジェクトの種はごく身近にある。
 「面白そうだ」「やってみたいですね」という声が上がったら、その件に詳しい人を訪ねて相談する。取引先に話してみる。上司の機嫌がよいときを見計らって、ちらっと話を持ち出す。成果をもたらすプロジェクトは、思いがある人と人のやりとりから始まる。
 今はまだない、新しいことを創り出すプロジェクトは簡単ではないが、楽しい。そうしたプロジェクトを進めていくには、白紙の状態から絵を描き、自ら動き、周囲を巻き込み、メンバーの力を束ねていく人が必要になる。こうした「プロデューサー」と呼べる人には、誰でもなれる。正確に言えば、関係者全員が大なり小なり、プロデュースする力を持たないと、これからのプロジェクトはうまくいかない。
 IT(情報技術)を利用して、事業創出や業務改革に取り組んだキーパーソンたちの経験談から、「新しいこと」を創るプロデューサーに共通する姿勢を探った。

(目次 康男)

◆天の時は今。動き出せば風が吹く
◆地の利を生かす。身近にある創造の種
◆人の和を尊ぶ。仲間と成果を共有する


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 プロデューサーと聞くと、まず思い浮かぶのは、映画や音楽のそれだろう。ある世界を創造するために、アイデアを募り、適切な人を探し、周囲を巻き込みながら、関係者の力を増幅し、最終的に観客を魅了する作品を作り上げる。映画作品や音楽作品の代わりに、ITを利用した新ビジネスやサービス、あるいは業務改革を当てはめてみると、ITにかかわるプロデューサー像が見えてくる()。

 実際に、新ビジネスや新サービスを創出したり、ビジネスモデルや業務プロセスの変革を推進したりした人たちから話を聞いてみると、三つの共通点があった。古来より事を成し遂げるために必要とされてきた「天の時、地の利、人の和」である。

図●プロデュースする力を高めて仕事の幅を広げる
図●プロデュースする力を高めて仕事の幅を広げる
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天の時は今 動き出せば風が吹く

 「誰もが業務を革新しなければならないと思っていた。たまたま私が第一歩を踏み出しただけ。動き始めてみると、システム部門と生産部門、そして上司と役員が応援してくれ、プロジェクトがうまく進み出した」。世界の各拠点にまたがるサプライチェーン管理(SCM)の改革プロジェクトを始めた、セイコーエプソン機器事業企画・管理室の井口信夫部長はこう話す。

 何が正解か、誰も分かっていない今こそ、新しいことを創造するチャンスと言える。井口部長のように、まずは動いてみれば、思わぬところから賛同者が現れてくるかもしれない。

 先が見えない以上、入念な計画を最初から立てようがない。いい意味で、軽く考え、行動してみてはどうだろう。東急ハンズで業務標準化プロジェクトを企画し、推進役となっている長谷川秀樹IT物流企画部長は言う。

 「最初からリスクばかり考えていたら何もできない。まずはやってみること。雲行きが怪しくなったら、いったん立ち止まって考えればいい。たとえ問題が起きたとしても謝れば済む、といった気持ちで進めることだ」。

地の利を生かす 身近にある創造の種

 「新しいことを考える際、情報システム部門ほど恵まれた環境はない。社内外の情報がどんどん集まってくるから。だから先手を打ってプロジェクトを始められる」。こう語るのは、東映アニメーションの吉谷敏情報システム部長だ。吉谷部長は携帯コンテンツ事業の強化策と組み合わせることで、システム部門の課題だったシステム基盤の刷新を成功に導いた。

 確かに、情報システム部門あるいはその部門と相対するIT企業の現場には、様々な情報が集まってくる。経営層の考えを知り、利用部門の本音に耳を傾け、取引先からも話を聞くことができる。情報が集まる職場の利点を生かさない手はない。

 システム部門は経営層と現場の調整役としての“地の利”もある。JALUXの販売業務改革を推進している梅原修システム企画チーム総括マネージャーは、「両者の相談役となりながら、利害関係が一致するような方向にプロジェクトを誘導できる」と、システム部門の地の利を強調する。


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