嵐の中で新年度がスタートした。企業のIT予算も軒並み超緊縮を余儀なくされ、前年度に比べ2~3割削減という企業も少なくない。IT部門から「コスト削減以外は何もできない」とため息混じりの声が聞こえてくるが、嘆く必要はない。腹をくくって今年度はコスト削減だけに注力すればよい。さらに少なくとも3年、今後の景気動向にかかわりなく、IT部門は“コスト削減の権化”として活動すべきである。コスト削減が経営トップの強い意志であるのだから、IT部門がそれに応えるのは当然のことだ。

ただし単純な“ムダ取り”ではなく、真正面からコスト削減に取り組む必要がある。根本的なコスト削減は、実は前向きの話になる。メタボリックな情報システムを筋肉質に変えるだけでなく、経営に資するIT部門の復活につながるからだ。そのためにも今年度の取り組みが重要だ。絶対にこの1年間で結果を出さなければならない。

狙い目は、サーバー統合や仮想化によるプラットフォームの整理だ。ツボにはまれば大幅な削減効果が期待できるうえ、今ならIT企業から全面的な協力を取り付けやすい。実際、IT企業からも従来にない切り口の提案が数多く寄せられている。正面突破のコスト削減に向け、まずはIT企業の提案を検証することから始めよう。



(高下 義弘、市嶋 洋平、木村 岳史)


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 2009年4月、企業はこれまでにないどん底の経済環境の中で新年度を迎えた。企業のIT部門は早急に、根本的なコスト削減策を見つけ出さなければならない。新年度のIT予算に大ナタを振るった以上、もはや小手先のムダ取りは限界である。本誌は、今こそ仮想化技術を全面的に取り入れて、サーバー統合やストレージ統合などのプラットフォームの整理・見直しに取り組むことを強くお勧めする。

 システムの保守・運営費などの固定的経費が7~8割を占めるIT関連の予算構造では、大幅なコスト削減を実現するのは難しい。無策ならば、新規のシステム開発案件を軒並み凍結するしかない。開発や保守・運用を依頼しているIT企業に単価の引き下げを要請するのは不況時の定石だが、過剰な要求はIT企業との信頼関係を壊し、サービス品質の劣化を招く。IT部門のスリム化は進んでおり、人員削減も限界だ。こうした“小手先の策”だけで乗り切ろうとすれば、将来に必ず禍根を残すことになる。

 やはり、ここはサーバーやストレージなどのプラットフォーム統合を進めることで、ハードウエアの台数を減らし、保守・運用費を削り込むのが一番だ()。最近のサーバーやストレージの性能向上は著しいので、統合効果は高い。大幅な保守・運用費の削減が見込めるため、現行製品を破棄する際に多少の資産除却損やリースの違約金が発生しても、十分にペイする可能性が高い。しかも、アプリケーションに手を付けないために、利用部門との摩擦も少ないし、新たな製品購入が伴うので、IT企業からの協力も得やすいなどのメリットもある。

図●IT予算の大幅削減には、従来のような単純なムダ取りでは対処できない
図●IT予算の大幅削減には、従来のような単純なムダ取りでは対処できない
保守・運用費に削り新規開発予算を捻出するには、IT投資を伴う根本的削減策が不可欠だ

重要なのは“期限”と“確実性”

 こうしたプラットフォーム統合は新規のIT投資である。移行費用も含め、一時的な資金流出が伴う。平時なら2~3年でペイすれば十分かもしれないが、今回はそんな悠長なことは言ってはいられない。

 「企業の多くは今、コストを大幅に減らさなければならない。将来のコスト削減につながるからといって、今期コスト増になってしまうようでは投資には踏み切れない」(ITRの広川智理取締役/シニア・アナリスト)からだ。つまり、最長でも1年で削減効果が出ることが不可欠だ。

 リースをうまく活用すれば、資金流出は平準化することができる。リース料金の支払い開始時期を先送りすることで、初年度の料金負担を軽減するサービスもあるので、システムの移行費用などの初期費用がかさむ場合は利用を検討する価値はある。ただし、これはキャッシュフロー面でのメリットであり、損益計算書上の費用は変わらない。資金繰りの面からコスト削減に取り組む企業には意味があるが、利益率の向上の観点からコスト削減に取り組む企業にはメリットは出ないから注意が必要だ。

 コスト削減が目的である以上、失敗は絶対に許されない。どれだけコスト削減効果があるか、事前に金額で正確に見積もっておく必要がある。また、移行時やその後の運用で大きなトラブルが発生すれば、統合によるコスト削減効果は相殺されてしまう。最近では、仮想化技術はこなれてきており、失敗リスクは少なくなってきてはいる。ただ、ERP(統合基幹系システム)までを仮想環境に移すのか、情報系の統合にとどめるのかは、慎重に判断する必要がある。

IT企業の“必死の提案”を活用

 コスト削減のためプラットフォーム統合に取り組む企業にとって好都合なことは、様々なIT企業が最近相次いでコスト削減をテーマにサーバー統合やストレージ統合などの提案を始めたことだ。例えば富士通は、4月中に「コスト削減バスケット」と呼ぶ提案集を営業担当者に持たせる。仮想化など17テーマについて、それぞれで即効性のあるコスト削減策を10種類用意する。「顧客が特に関心を持つテーマを分かりやすく記述した」(富士通 TRIOLEオファリング統括部の村本重樹 統括部長)という。

 既に、日本IBMとIBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)が2月から、ITコストなどの削減について2週間で診断する「緊急オファリング」を開始している。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)やEMCジャパンなども同様の診断サービスに乗り出している。こうしたサービスは「オファリング(提案)」の名の通り、いずれも営業活動の一環であり、無償サービスである。プラットフォーム統合を進めるうえでの取っ掛かりをつかむためには、利用価値がある。

 IT企業がこうした無償サービスに相次いで乗り出すのは、顧客企業のITコスト削減による売り上げ面への影響を極力緩和したいからだ。無償サービスを足がかりに、プラットフォーム統合で他社機をリプレースできれば大型商談になり、その顧客内でのシェアも高められる。そんな思惑があるのは間違いない。ただ、それはコスト削減を実現しなければいけない利用企業にとっても望むところ。IT企業を全面的には信頼できないにしても、今はIT企業の“必死の提案”を使い倒したほうがよいだろう。


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