計画の勝利――。三菱東京UFJ銀行のシステム完全統合プロジェクト「Day2」はこう呼べるだろう。
Day2の開発工数は11万人月、開発期間は3年弱。2500億円が投じられ、ピーク時には6000人の技術者が参画した。世界最大とも言われたプロジェクトを大きなトラブルなく予算・納期どおりに完遂できたのは、同行が綿密な計画を立て、6000人が各自の持ち場で計画を着実に実行し、経営陣と利用部門が全面支援したからだ。
全体の計画立案、リスクの洗い出し、約70を数えたチーム作り、利用部門を巻き込んだ要件定義、IT企業との連携、品質と進捗の管理まで、あらゆる局面においてプロジェクトマネジメントとシステム開発の「正攻法」を貫き通した。徹底した計画と管理の一方で、泥臭い士気向上策も忘れなかった。
6000人の奮闘ぶりを子細に見れば、あらゆる企業やプロジェクトに通用する正攻法が学べるはずだ。当事者だけが知る取り組みと創意工夫を調べ上げた、プロジェクトマネジメントとシステム開発の“生きた教科書”をお届けする。
(大和田 尚孝、二羽 はるな)
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4000万口座が一つのデータベースに集まった。夜明け前の午前3時、旧東京三菱銀行を基にした新システムに旧UFJ銀行の口座データを移すデータ移行の最終回が完了した瞬間だ。2008年12月14日の日曜日のことである。12日金曜日の午後9時にオンラインサービスを止めてから30時間。5回に分けて進めたデータ移行の最終回が終わった。計画したタイムチャートよりすべての作業を前倒しで進められた(図)。
データ移行で実行したJCL(ジョブ制御言語)は5回めだけで3万2000本もあったがエラーはゼロだった。「移行演習とリハーサルを20回以上繰り返した成果が結実した」。データ移行を推進したシステム部の井辻豊上席調査役は胸をなでおろした。
磁気テープレスの新方式
システム統合に付き物のデータ移行で、必ず直面する課題がある。移行当日の作業時間が足りるかどうかだ。
今回のプロジェクトにおけるデータ移行の山場は、08年7月から12月にかけての旧UFJ銀行のデータを対象とした作業だ。いずれも土曜日と日曜日の休業日を作業に充てた。万が一日曜日までに移行が終わらないと月曜日に店舗を開けられない。
1回に移行する対象ファイルは2000種類に及ぶ。データ項目は勘定系の主要項目だけで1万8000。移行データ全体ではさらに膨らむ。これらの大量データを旧UFJ銀行のシステムがある千葉・印西のデータセンターから、新システムを設置した東京・多摩のデータセンターに届けなければならない。もちろん時間内に正確にだ。
この課題を解決するために、三菱東京UFJ銀行は三つの工夫をした。
一つめはデータ転送に磁気テープでなくネットワークを使ったことだ。千葉と多摩を光回線で接続。多摩にある新システムのメインフレームなどから千葉のディスクに直接アクセスする仕組みを構築した。
2ルート4本の光回線を用意
光回線を使ったデータ移行の手順はこうだ。まず千葉のデータセンターにある旧UFJ銀行のシステムで移行プログラムを起動し、旧データを新データに変換する。変換結果は千葉の移行用ディスクにはき出す。それが終わると、「多摩の新システムが移行用ディスクから新データを読み込んで新システム用のディスクに書き込む」(システム部固定性預金グループの福住雅裕チームリーダー)。
ネットワークを使えば、「搬送時間だけでなく磁気テープへの出力と磁気テープからの入力の時間を減らせる」(システム部統合推進グループの中田一朗上席調査役)。従来、システム統合ではデータの移行に磁気テープを使うのが一般的であった。ところが磁気テープ方式だと、旧システムから磁気テープにデータを吸い上げ、磁気テープを旧センターから新センターに運び、磁気テープから新システムにデータを落とし込むことになり、手間と時間がかかる。時間短縮、エラー防止などの観点で最善と判断したのが今回の手順だった。
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