医療崩壊が叫ばれて久しい。医師偏在による地方の医師不足、経営不振による病院の閉院など、問題は山積みだ。「カルテ情報の電子化」「レセプトのオンライン化」といった医療機関のIT化は、こうした問題を解決する糸口となり得る。ITの活用で医療はどう改善できるのか―医療機関、行政、ベンダーの取り組みから明らかにする。


(二羽 はるな)


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 「医療のIT化」といってもピンとくる読者は少ないだろう。患者および医師の視点に立ったとき、医療改善に大きく貢献できるのが「電子カルテ」の導入である。あなたが病院などで診察を受けたときのことを思い出してほしい。医師は、「あなたがどんな症状で」「どんな処方をしたか」などをカルテに書きとめたはずだ。

 電子カルテは、これまでの紙のカルテを電子的なシステムに置き換え、診療情報データをデータベースに記録する仕組みである。その普及は、診療の質を向上させたり、医療機関同士の連携を密にしたりといったメリットを生み出す。

 本記事の前半では、電子カルテが医療をどう改善できるのか、その可能性を探る。後半は、「診療報酬明細書(レセプト)」に焦点を当てる。レセプトとは、医療機関が医療費を保険者に申請するための書類。厚生労働省は、オンライン請求することを段階的に義務化している。

「胆石イレウス」が見つかった

 まずは電子カルテの活用例をひとつ紹介しよう。

 今日はどうも体調がすぐれない。急にお腹が痛くなり、吐き気も治まらない。近くの診療所に駆け込んだが、すぐには原因がわからないという。そこでコンピュータ断層撮影(CT)を実施。しかし撮影画像を診てもらっても進展はなく、改めて病院に行くよう勧められた。

 こうした経験は他人事ではないだろう。問診や検査、画像診断など、どこの医療機関でも目にする風景だ。もし、この地域の医療機関に電子カルテが普及していて、しかもネットワークで結ばれていると、CT撮影後の対処はこう変わる。

 CTを撮影した後、診療所が近隣の病院に画像データと検査結果を伝送した。専門医に診てもらったところ胆石イレウスと診断され、病院に入院、手術することになった。胆石の摘出手術をした後、約2週間で退院。退院後は最初に訪れた近所の診療所で経過を診てくれるという。どうやら今回の胆石イレウスは放射線科の専門医でなければ画像診断は難しかったらしい。

 これは香川県医師会が運営する「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)」で実際にあった事例だ()。K-MIXでは画像や検査値などの医療情報をネットワークを介してやり取りし、医療機関の連携を可能にしている。患者にとっては、受けられる医療の質の向上につながるというメリットがある。

図●医療機関のIT化によって得られるメリット<br>香川県では医療機関同士で電子カルテなどをやり取りし、地域ぐるみで患者をフォローしている
図●医療機関のIT化によって得られるメリット
香川県では医療機関同士で電子カルテなどをやり取りし、地域ぐるみで患者をフォローしている
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 医療機関にとってのメリットも大きい。診療所は、撮影画像や検査結果などについて地域の中核病院など、他の医療機関の専門医に相談することが容易になる。病院は受け入れる患者の情報をあらかじめ得ることで治療計画が立てやすくなるし、退院後の患者の経過観察がしやすくなる。

 「インターネット環境さえあれば、日本中どこの医療機関でもK-MIXによる医療連携が可能だ。元々は香川県の地域医療連携のための取り組みだが、最近は兵庫県や岡山県、沖縄県など県外の医療機関の利用も増えている」と香川大学医学部附属病院医療情報部の原量宏部長は語る。

 ただし、電子カルテを導入しさえすれば、医療連携が実現できるわけではない。電子カルテはあくまで道具にすぎない。導入目標を明確にしたうえで使わなければ効果が上がらないのは、他の情報システムと同様だ。一般に、電子カルテ導入には三つのステップがある。(1)電子カルテを導入しデータを蓄積する、(2)蓄積したデータを活用する、(3)院内から院外へ連携を広げる、である。


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