経費は一律20%カット、新規事業はゼロベースで見直し――。2カ月前の米リーマン・ブラザーズの破綻に端を発した世界金融危機。急速に悪化した日本経済。生き残りを賭けたコスト削減目標がトップダウンで決まっていく。
 IT投資も例外ではない。
 だが交際費や交通費のようには、IT投資は削れない。保守切れに伴うハード/ソフトの買い替えやビジネス環境の変化に追随するためのシステム保守など、システムの維持とコスト削減の板挟みになり、多くのシステム部門が悲鳴を上げる。
 そうした中、システムの寿命を自らコントロールすることで、IT投資を削減する動きが出てきた。システムを「いつまで使うか」や「いつ捨てるか」を決めるのは、メーカーでも法律でもなく、ユーザー企業自身だ。


(目次 康男)

◆使いたいけど使えない
◆賞味期限を見極める
◆自己防衛でコントロール


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 株価の大幅下落と急速な円高を受けて逆風が吹き荒れる日本経済。企業は生き残りを賭けてコスト削減を急ぐ。

 IT予算も例外ではない。

 「ムダなITコストは1円でも削れ」。こうした号令が各所で飛ぶなか、多くのシステム部門が槍玉に挙げるムダがある。ハードやソフトの保守サポート切れが原因で、まだ使えるシステムを破棄したり、再構築するのにかかるコストだ。緊縮予算下、使えるシステムはできるだけ長く使いたいのに、ユーザーの意向ではどうにもならない実態がそこにはある。

 まずは不満の声を紹介しよう。

証言(1)利用開始3年で保守切れ

 「たった3年でなぜ使えなくなるんだ」。ミシン製造大手JUKIの松本進情報企画部長は思わず声を荒げた。外資系メーカーの営業が保守サポート期間の終了を理由にパソコンサーバーの買い替えを提案してきたときのことだ。

 このサーバーは買い替え提案の3年前、SAP製ERP(統合基幹業務システム)で基幹系を刷新したのに併せて利用を始めたもの。JUKIの認識では使い始めて3年しか経っていないが、実際にはその2年前からメーカーが開発マシンとして使っていた。このためメーカーが決めた5年の保守サポート期間が2006年3月に終了した。

 保守サポート期間が終わると、メーカーは壊れても修理しない。交換部品の供給も保証しない。JUKIは再リースと保守サポートの延長を持ちかけたが、メーカーは受け入れなかった。

 保守切れのまま使い続けることも考えた。しかし「基幹系の管理用サーバーではさすがにリスクが大きい」。仕方なく1000万円弱を投じてサーバー6台を買い換えた。

 計画外の出費を迫られた松本部長は今でも納得がいかない様子だ。「メーカーが一方的に寿命を宣告するなんて、IT業界以外では通用しない」。

証言(2)バージョンアップに巨費

 ユーザー企業の不満の矛先はソフトにも向かう。

 「5年しか使っていないのに、パッケージのサポート期限が切れた」。北海道ガスの倉品義文業務高度化推進部長は、2003年に営業拠点に導入したシーベル・システムズ(現オラクル)製CRM(顧客関係管理)ソフト「Siebel CRM 6」の“賞味期限”の短さを嘆く。

 Siebel CRM 6の保守サポート期間は昨年12月で終了した。北海道ガスはオラクルとサポート契約を結んでいるので、最新版のライセンス自体は追加費用なしで入手できる。

 だがバージョンアップのための作業費は北海道ガス持ちだ。独自に開発した数十種類のアドオンが最新版で動作するよう検証・修正するのにかかるコストを含めると、見積もりは軽く1億円を超えた。

 これは当初の導入費用の半分に相当する金額。「ここでバージョンアップをしても、5年後に同じ負担を迫られる」。こう判断した北海道ガスは今年10月、営業支援システムをスクラッチで開発し直す検討を始めた。

ユーザーの希望と大きく乖離

 本来、システムの寿命はユーザー企業が自ら決めるもの。だが現状はそうなっていない。ハードやソフトのサポート切れが原因で、多くのシステムが更新を迫られている。

 ビジネスである以上、ベンダーもハードやソフトを永遠にはサポートできない。そんなことはユーザー企業もわかっている。

 それにしてもベンダーが決める保守サポート期間は、ユーザーの希望と大きくかけ離れている()。

図●システムの想定利用期間とハード/ソフトの保守サポート期間のギャップは大きい
図●システムの想定利用期間とハード/ソフトの保守サポート期間のギャップは大きい
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 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によると、ユーザーが想定する基幹系システムの使用年数は自社開発の場合で14.5年、ERPパッケージを使った場合でも11.2年。いずれも10年を超える。

 これに対してハードの保守サポート期間の相場は、パソコンサーバーで販売後5年、ストレージで同8年といったところ。仮にシステムを15年使うとしたら、途中でサーバーを2回、ストレージを1回買い替えなければならない計算だ。

 ソフトの保守サポート期間もユーザーの期待より大幅に短い。標準保守期間はERPパッケージで5~7年、データベースやOSといった基盤ソフトで5年が相場。これを過ぎるとベンダーは、制度変更やセキュリティ強化のための修正プログラム提供を順次縮小する。電話やメールによる問い合わせを受け付けなくなるなど、サービスレベルが大きく下がる。

 ソフトの場合、製品の発売日や出荷日から保守サポート期間のカウントが始まる。ユーザーの購入日を起点に保守サポート期間を算定するハード製品とは違った注意が必要になる。

 バージョン末期のソフト製品を購入すると、思ったよりも早く保守サポートが切れる。追加料金を払って3~5年の延長保守を受けたとしても導入作業にかかる時間を考えると、実働は5~6年といったところだろう。


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