コンサルタントやITアーキテクトといった上流工程の職種は、年収アップに有利──。ITエンジニア約3万人の調査から、こんな実態が浮かび上がってきた。一方、スキルレベルの向上に学歴は関係ないということが明らかになった。


(高下 義弘)


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 「同等のスキルレベルを持つ人同士でも、職種が違えば271万円もの年収差が出てくる」──。IT人材の労働実態を研究している任意団体「ITスキル研究フォーラム(iSRF)」がITエンジニア約3万人を対象にした調査の結果から、こんな実態が見えてきた。

 まずはをご覧いただきたい。調査結果に基づき、スキルレベルの向上に応じた平均年収の推移を、職種別にプロットしたものだ。スキルレベルや職種の区分は基本的に、経済産業省が策定したスキル体系「ITSS(ITスキル標準)」に基づいている。調査では、スキルレベルを最も低い就業前の「未経験レベル」から最も高い「レベル7」に至る8段階に分けた。図については、サンプル数がゼロか少なかったレベル6とレベル7は省略している。

図●主な職種とスキルレベル別の平均年収の推移
図●主な職種とスキルレベル別の平均年収の推移
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 コンサルタントの年収に目を向けると、レベル5の平均年収は927万円。一方、アプリケーションスペシャリストのレベル5は656万円である。

 コンサルタント、アプリケーションスペシャリストのどちらも、システム開発では重要な職種であることに間違いない。だがそれでも、スキルレベル5の平均年収を見れば、両職種間には271万円の差が出てしまうのだ。

 職種間における年収の違いは、ほかにもある。例えば、スキルレベル4のITスペシャリストとスキルレベル3のITアーキテクトの平均年収を見ると、両方ともほぼ同じ640万円台である。つまり、職種によってはスキルの度合いが低くても、他の職種の上位レベルと同じ年収が得られることになる。

 収入が仕事のすべてではない。職種に上下の位はつけられない。それでも職種間でこれだけ“年収格差”がある事実は見逃せないものと言えるだろう。

年収アップを狙うなら「戦略職種」

 本調査は2007年9月から2008年7月にかけて、iSRFがスキルを企業単位で調べた。加えて、2008年6月~7月、個人を対象にWebサイト上でスキル診断と労働環境についての意識調査を実施。合計3万 192人から有効回答を得た。

 調査結果に見るITエンジニアの平均年収は550万円である。平均年齢は35.1歳。国税庁の「民間給与実態調査」によれば、2007年12月末時点現在における日本の民間企業における平均年収は437万円で、平均年齢は44.1歳。労働環境や条件は明らかではないものの、IT業界は多少なりとも給与レベルが高い業界といえる。

 スキルレベルの平均は2.8である。経済産業省はITSSのスキルレベル1から7を次のように定義している。スキルレベル2までを「エントリレベル」とし、「上位レベルの指導の下で職務の課題を発見・解決できる人材」と定義している。「ミドルレベル」に当たるレベル3~4が「自らのスキルを駆使して課題を発見・解決できる人材」。レベル5~7は「ハイレベル」とし、「社内外でビジネスをリードできる人材」としている。加えて本調査では専門が確定していない就業前の人材を未経験レベルと定義し、調査の対象としている。未経験レベルは上記の枠組みではエントリレベルに含まれる。

 ITSSでは、言外に「レベル3からがようやく自律的に活動できるプロフェッショナル」としている。レベルの平均が2.8という現状など考えると、「半数をようやく超える程度がプロの人材。プロに満たない人材も半数近くいる」というIT業界の厳しい人材事情が見えてくる。逆説的だが、そんなIT業界だからこそ、スキルを高めれば年収増が期待できる。

 年収の伸び方は職種によって異なる。いわゆる「上流工程」にかかわる職種のほうが、年収が高くなる傾向が強い。上流工程とは、経営戦略や情報化戦略の策定、プロジェクトの企画・推進など、企業やプロジェクト全体の方向性を決める工程である。コンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネジメントといった「戦略職種」ではスキルレベル5になれば、平均年収は800万~900万円台。サンプル数が少ないため参考値として見るべきだが、レベル7ではいずれの職種も1000万円台に乗る。

 転じて、システム化の方向性が固まった後の実作業、つまり「下流工程」に携わる職種に目を向けてみよう。スキルレベルが上がっても平均年収は上流工程の職種ほどには高くならない。ITスペシャリストやアプリケーションスペシャリストは「企業内のハイエンドプレイヤー」とされるレベル5でも、平均年収は600万円台にとどまる。


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