金融機関など一部の企業を除き、IT部門の縮小や技術の複雑化を前にギブアップし“絶滅”したかに見えた「システム内製」。ところがここにきて、あちらこちらの企業で“復活”しているのを本誌はキャッチした。時代のあだ花か、それとも大きな潮流となるのか──。インターネット系のベンチャー企業から、伝統的な製造業や流通業まで。幅広い業種で、内製化に転換した企業あるいは当初から内製を貫く企業12社を選び、彼らの証言から内製化の“真相”を探る。


(市嶋 洋平)

◆再び実感する内製のメリット
◆イバラの道を越えて


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 「正直大変だったが、やっぱり内製に戻して良かった」。

 今年1月、内製への転換を実行に移した給湯機器大手ノーリツの角谷俊郎経営統括本部IT推進部長は自信満々にこう話す。実は90年代の半ばにシステムをオープン化した際、「技術についていけない」として内製を断念し、外注に切り替えていた。10年以上の時を経て内製に回帰したのだ。年商4500億円の酒類・食品流通業の日本酒類販売(日酒販)も転換組の1社。今年4月、メインフレームからオープン系に刷新した受発注・経理システムの構築を内製で進めた。

 こうした歴史のある企業で内製回帰の動きが続々と出始めている。実はその「先生」は新興企業。例えば、ネット専業の証券会社であるカブドットコム証券、産地直送の野菜などの食品販売を手掛けるオイシックスは、創業から内製を貫く。両社は「事業を素早く立ち上げ、経営や利用部門の要求を迅速に実装するためには内製しかない」(オイシックスの山下寛人システム本部長)、「システム内製は自社のビジネスモデルを実現し、他の企業との差異化に必要不可欠な武器」(カブドットコム証券 阿部吉伸執行役システム統括部長)と言い切る。

内製でないとさばけない

 ノーリツや日酒販などが内製に転換する理由も、厳しくなる一方の利用部門などからの要求に迅速に対応するためだ。日酒販 情報物流本部情報統括部の大西完治次長は「ここ2~3年で案件がどっと増えた。システム変更の依頼があまりにも多い」と打ち明ける。

 今や同社と小売店など取引先とのやり取りはEDI(電子データ交換)が主流。新たな取引先を開拓するたび、システムの変更が生じる。取引先の拡大に伴い、システムへの開発・変更要求はEDIを中心に年間2000件にも上る。取引先の決済方法に合わせて、日酒販側が販売管理や会計のシステムに手を入れる必要があり、ITベンダー任せではもはや対応できない。

 歴史のある企業にとっては、内製化を団塊世代のベテランが大量に退職することなどで生じた人材問題の切り札ととらえるところも多い。

 現在の基幹システムを構築したのは、今の50代や40代のベテランが若かりしころ。しかし、その肝を知る中心メンバーは他部門や関連会社に異動したり、退職や転職で会社を去っているケースが少なくない。運用・保守を二人三脚で任せてきたベンダーでも同様の状況。つまり、システムの中身を知る人がどこにもいなくなる。

 クラレはこの危機を内製化のチャンスに変えた。昨年5月に販売・生産・物流システムをオープン化。メインフレームの運用・保守で約40人のITベンダーに頼っていたがこれを原則ゼロにした。

 独SAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージで新システムを構築したが、50人のIT部員全員にメインフレームの開発言語を“捨てて”もらい、新たにSAPの開発言語を習得させた。「保守や新たな案件が出ても自社要員だけで対応できる」(クラレの情報子会社でIT部門であるクラレビジネスサービスの太田幸好社長)という体制を作り上げた。

 いったん内製をやめた企業にとっては、IT部門を一から立て直すような苦労を伴う。ノーリツの場合は「3年かけてやっと要件定義を内製できるようになった。設計はこれから取り組む」(角谷部長)としている。

要は責任と主体性を持つかどうか

 このように内製化はイバラの道でもあるが、得るものも多い。利用部門のニーズに即応できる体制を作り、いわゆる2007年問題にも手を打つことで、システム部門の社内におけるプレゼンスが上がることはあっても下がることはない。そして、利用部門とタッグを組んだ、ITによるビジネスの差異化に手を打つことができるのだ()。長年内製に取り組むヤマハ発動機の鈴木満義プロセス・IT部長は「IT部門が責任と自信を持って動かないと、経営から相手にされなくなる」と指摘する。

図●各社がシステム内製化で目指すメリット
図●各社がシステム内製化で目指すメリット

 今回の特集で取り上げる内製の形態は多種多様だ。スクラッチで開発から実装までこなすものもあれば、ERPパッケージを駆使するものもある。ノーリツのように上流から内製への回帰を始めている企業もある。

 要は自社側で結果に責任を持って、主体性を持って取り組むかどうか。内製化の肝は、パッケージ利用の流れの中で、ベンダーに渡してしまった開発・運用の主導権を取り返すことだ。ベンダーとの契約は請負から準委任や派遣に変え、ベンダーとは新たな関係を築き上げる。

 これから多くの企業が乗り出すのは間違いないシステム内製について、先行企業の成果と苦労を紹介する。


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