SaaSやクラウドコンピューティングなど、システムを持たずに使う動きが活発化している。だが普及はこれからだ。そうしたなか一足先に基幹システムを手放すことに成功した業界がある。地方銀行だ。全国108行(10月14日時点)の8割近くが勘定系を共同化している。コスト削減効果はどの程度か。不自由はないのか。地銀を例にシステム共同化の真実に迫る。

(大和田 尚孝)


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 「数は力だ」。京都銀行の北山裕治執行役員システム部長はこう断言する。同行は13地銀が参加する最大陣営「地銀共同センター」の第1号ユーザー。複数の地銀が集まることでシステムの維持コストを下げられた。各行が知恵と開発費を出し合い豊富な機能を実現。ベンダーへの発言力も増した。

 米証券大手リーマン・ブラザーズが経営破綻するなど、経済環境の先行きが不透明になっている。システムの共同化に熱い視線を送る企業は少なくない。気になるのは、京都銀が言うようなメリットがどの程度あるのかだ。意見調整に手間がかかる、時間とともに個別開発部分が肥大化してメリットが薄まる、IT部門が弱体化するといったリスクもあるはず。それらはどうすれば乗り越えられるのか。

 地銀業界で共同化が本格化したのは2002年~2003年。構築中を含めれば現在は18陣営が存在する。地銀の現状を探れば、システム共同化の“真実”が見えてくる。

維持コスト
3割減が相場、半減も

 陣営によってシステム共同化の目的は異なるが、その一つに維持コストの削減があるのは間違いない。そのコストに直結する要素は三つある。「広さ」と「深さ」、それに共同化に参加する地銀の「数」だ。

 「広さ」は共同化の対象範囲を指す。勘定系だけを共同化するのか、情報系や対外系まで含めるか。ATMや営業店システムはどうかなどだ。

 「深さ」は、データセンターとハードウエア、ソフトウエアのどこまでを共用しているかを意味する。一つのデータセンターに参加行のハードを並べているならデータセンターの共同化。同一のハードを論理分割して各行のアプリケーションを搭載する形態は、データセンターとハードの共同化だ。いずれもアプリケーションは同一仕様のものを各行が別々に動かす。

 実際に動かすアプリケーションまで共用すると、ソフトの共同化となる。もちろん各トランザクションは銀行ごとに振り分ける。「マルチバンク方式」と呼ばれる機能で、銀行固有の「銀行コード」を用いて実現する。ソフトまで共同化すると、OSやミドルウエアの購入・維持費用も減らせる。

横浜銀は深さと広さの両方を追求

 地銀の共同化は、陣営によって広さと深さ、数に違いがある()。深さと数で先行するのが「地銀共同センター」。中核に採用するNTTデータの勘定系パッケージ「BeSTA」はマルチバンク方式に対応している。第1号ユーザーである京都銀の勘定系の維持コストは、年間40億円から半減した。情報系などを含めた同行のIT投資総額は70億円強だったので、全体から見ると3割減った計算だ。2番目に利用を始めた千葉興業銀行の栗原隆浩経営企画部IT企画室長も「勘定系の維持コストは、ほぼ半減した」と証言する。

図●主なシステム共同化陣営における「広さ」と「深さ」
図●主なシステム共同化陣営における「広さ」と「深さ」
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 広さが際立つのは、福岡銀行と広島銀行などによる「共同利用型基幹システム」や三菱東京UFJ銀行が主導する「Chance」。昨年1月にChanceの第1号ユーザーとなった常陽銀行は「共同化によるIT投資全体のコスト削減効果は3割程度」(鶴田明システム部長)という。福岡銀もほぼ同程度だ。

 残る要素の「数」は、論理的には多いほどコスト削減効果が大きいはず。ただ、地銀の例では数と効果の関係は見えない。実はシステム共同化は、ITベンダーが主導するタイプと銀行が主導するタイプの二つに分かれる。前者の場合、利用料はITベンダーがあらかじめ採算ラインを計算して決め、参加行数に連動しての増減はない。一方で銀行主導タイプでは、現時点で参加行数に大きな差がない。これが数と効果の関係が見えない理由である。

 数年前から稼働している共同化陣営は、広さか深さのどちらかを優先していた。共同化の難易度が、広さや深さに比例するためだ。これに対して地銀最大手の横浜銀行が北陸銀行、北海道銀行と進める「MEJAR」は、「広さと深さの両方を追求する」(米田誠一取締役執行役員MEJARオフィサー)。2010年1月に稼働を予定するMEJARは後発組なので、共同化による効果の最大化を狙うわけだ。


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