「業務を標準化して理想の業務プロセスを確立し、ITインフラを統一すべきだ」。今までもさんざん言われてきたことだが、日本企業での成功例は少なく、欧米企業に大きく後れを取っていた。だがここにきて、実際に業務を標準化しシステムの統合をやり抜く日本企業が現れている。きっかけはM&A(合併・買収)の活発化や国内市場を含めたグローバル化だ。変化についていけないシステム部門は大いに危機感を持つべきであるが、今までできなかった“理想のシステム”の構築へ向け大きなチャンスにもなり得る。


(吉田 洋平)

◆M&Aがシステムを変える
◆業務プロセスを標準化する
◆ITインフラを統一する


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 今年6月、日本板硝子の社長に英国人のスチュアート・チェンバース氏が就任した。チェンバース氏は2006年に日本板硝子が6000億円超で買収した英ピルキントン出身。グローバルビジネスの強化のためとはいえ、経営不振でもない中での外国人社長の抜てきは極めて異例だ。

 変化はITにも及ぶ。チェンバース氏の就任に伴い、CIO(最高情報責任者)には同じくピルキントン出身のステファン・パウノル氏が就いた。今後、日本板硝子はピルキントンが採用している標準に合わせて、SAPでグローバルのシステムを一元化していく。

 システムの開発体制も変化する可能性がある。ピルキントンは内製中心だ。逆に日本板硝子は2003年にシステム子会社をNTTデータに売却しており、内製は難しい。システム開発にもピルキントン式を採用することになれば、組織面も大きく変える必要が生じる。ある関係者は「今後どうなるのか、まだ全くわからない」と漏らす。

日常の出来事となったM&A

 日本板硝子の例は極端だが、日本企業によるM&A(合併・買収)は近年非常に活発化しており、それに伴うシステム見直しの動きも急増している。

 例えばJ・フロントリテイリング。9月1日、傘下の大丸と松坂屋はほぼシステム統合を終えた。松坂屋は大丸のシステムに片寄せするため、1日を全店一斉休業とした。同じく百貨店の再編によって誕生した三越伊勢丹ホールディングスも、2010年にシステム統合を予定する。

 大阪証券取引所によるジャスダック証券取引所の買収は、「システム統合を認めないと買収しない」とする大証の提案を、紆余曲折の末ジャスダックがのんだことで決着した。大証がジャスダック株のTOB(株式公開買い付け)を実施し、来年には両社のシステムを一本化する予定だ。

 8月末に米国の大手販社を約1700億円で買収すると発表したリコーは、これまでにも日立製作所のプリンタ子会社や米IBMのデジタル印刷事業などを買収してきた。現在、グローバルでのサプライチェーン統合を軸にしたシステム統合を進めている最中だ。

 ニッカウヰスキーをはじめ、旭化成や協和発酵の酒類事業などを買収したアサヒビールは今年1月、生産管理システムを統合した。ビール、ウイスキー、焼酎などすべての酒類を同一のシステムで生産できるようになった。同じビール大手のキリンホールディングスも8月にオーストラリアの乳業大手を約840億円で買収するなどM&Aを積極化。同時に、グループの会計や人事などの統合を進めている。

 M&Aやその後のシステム見直しは“超”のつく大手企業に限らない。日用品卸のあらたは、2002年に北海道、中部、九州を主な拠点とする3社が合併して誕生した。その後も四国や関西の企業を買収し拡大を続けている。

 あらたは現在、新しい基幹システムを各拠点に展開している最中だ。新システムは、各社で異なっていた原価の計上方法や在庫管理の方法を標準化したうえで構築した。

経営者のITに対する意識に変化

 M&Aの日常化は、経営者のITに対する問題意識も変えた。大きな経営課題として、明確に認識されるようになったのだ()。

図●経営環境の変化がシステム統合を加速させる
図●経営環境の変化がシステム統合を加速させる

 「グループ全体として非連続の成長を果たすには、システム統合が必要という認識が経営陣にはある」。キリングループの情報システム会社であるキリンビジネスシステムの小原覚 取締役経営企画部長はこう語る。あらたの元山三郎 取締役専務執行役員システム本部長も「システムを一つにしないと共通の会話ができない。合併の効果がなくなってしまう」と指摘する。

 M&Aをきっかけに、全社レベルでの業務プロセスの標準化やITインフラの統一に発展する。システムが事業部や拠点ごとの個別最適に陥っていることが顕在化するからだ。リコーは、それまで生産拠点ごとにバラバラだった業務プロセスやシステムを標準化し、同一の生産システムを各拠点に展開しようとしている。人事や会計、購買なども全社で一本化する。

 旧NKKと旧川崎製鉄が統合して誕生したJFEホールディングスは2006年に傘下のJFEスチールのシステムを統合した。従来業務にとらわれない標準プロセス策定を目指し、両社の業務をゼロから見直した。

 M&Aの日常化により経営者の意識が変わったことで“当然”になったシステム統合。日本企業のIT活用はいよいよ欧米と肩を並べ始めた。


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