粉飾決算、大型リコール、市場環境の急変――。経営危機を招くリスクは増え続ける一方だ。危機につながるリスクに適切に対応し、成長へのチャンスにつながるリスクを確実に生かすために、全社横断的なリスクマネジメントの仕組み作りが緊急課題となっている。それには情報システムの活用が効果的だ。出光興産、双日、ユニ・チャームの事例からIT活用の最前線を探る。


(島田 優子)


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 2003年9月26日。北海道の日高・十勝地方を中心にマグニチュード8.0の地震が襲った。十勝沖地震である。

 出光興産の北海道製油所がある苫小牧は、震源地からはやや遠い。だが地震の2日後、タンクから火災が発生した。地震により、人間に感知できないくらいの長周期振動が発生。これが引き金になり火災が起きたのだ。全面復旧にはその後3年を要した。

 地震発生から5年弱がたった今年6月、出光興産は「XHQ」と呼ぶシステムを千葉製油所・工場に導入。06年10月から始めた全国6カ所の生産拠点への導入が完了した。生産拠点を束ねた横断的なリスクマネジメントの仕組みがこれで整った。

安全を支える「一画面」を作る

 XHQは「生産設備にかかわるあらゆる情報を一画面で閲覧するためのシステム」と、出光興産の技術部プロセスシステムセンターの村上大寿主任部員は説明する。経営に打撃を与えるリスクの芽を早期に見つけ出し、対策を打つのが狙いだ。

 連結グループ約7500人のうち、製造に携わるおよそ3000人が製油所・工場の安全操業のために利用する。製油所や工場の長から部長、課長、現場の担当者までが対象である。しかも全国6カ所の情報を、どの製油所・工場からも閲覧できる()。

図●出光興産が構築した操業マネジメントシステム「XHQ」の画面<br />安全や環境、品質といったリスクにかかわる情報のほか、収益などの情報も表示する
図●出光興産が構築した操業マネジメントシステム「XHQ」の画面
安全や環境、品質といったリスクにかかわる情報のほか、収益などの情報も表示する
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 実は、XHQを全社展開するきっかけとなったのが冒頭の十勝沖地震だった。出光興産は「典型的なボトムアップ文化」(村上主任部員)。製油所・工場が使うシステム導入の決定権は各拠点の長にある。当初は各拠点の長にXHQの導入を勧めても、色よい返事が得られなかった。システムのROI(投資対効果)が見えにくいからだ。

 そんななか真っ先に手を挙げたのが北海道製油所だった。村上主任部員らがXHQの説明のために全国各地を回っていた05年当時、北海道製油所は十勝沖地震の被害から復興を目指している真っ最中だった。「復興にあたり新しい仕組みを導入することで、より高度な操業を目指したい」。北海道製油所長の考えがXHQの導入につながった。

 「北海道が入れるなら」と、他の生産拠点も後に続き、全社展開に至った。出光興産は詳細な投資額を公開していないが、XHQの展開には3億5000万円以上を投じたという。

アラートの表示で気づきを与える

 出光興産のXHQが表示する情報は13種類。事故につながりそうな出来事を集めた「ヒヤリハット」に関する情報や、製油施設の排出ガスや操業に関する情報など安全・安心の実現に必要なものが中心だ。

 収益改善の進捗状況や、灯油、ナフサ、ガソリンなど製品ごとの在庫量といった経営にかかわる指標も表示する。XHQの導入当初、表示する情報は9種類だったが、ユーザーからの要望を入れて増やしていった。

 XHQの役割は単に情報を表示するだけでない。問題発生の気づきを与える仕組みや、対応策の立案を支援する機能も用意している。

 アラートの表示機能はその一つだ。事前に設定した基準値を上回るなど問題が発生しそうな値に、赤い「!」マークを表示し警告を出す。基準値は同社が自主的に設けたり、法定で決められたものを含め数百以上ある。排気ガス量や生産設備の酸性値などだ。

 アラートをクリックすると、データをドリルダウンできる。「直近の6時間の指標の推移」や「工場間の比較」など、問題のあるデータの多角的な分析が可能だ。

 XHQで表示する情報は、複数の既存システムから取得している。基幹系システムから財務情報を取得するほか、設備管理システム、安全管理システムなど主に7システムから情報を得る。

 情報の更新頻度は1分おきから月次まで「情報の性質に応じて変えている」(村上主任部員)。操業状況はリアルタイムに近い頻度で更新。一方、収益改善や省エネの情報は比較のしやすさが重要なので、月次で表示している。


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