現場では必須ツールだが、肥大化・老朽化で維持できない―。
ユーザーがExcelで作った業務ツール(“Excelレガシー”)、
ノーツで作成したデータベースやアプリケーションなどだ。
これらは現場にあるレガシー資産。いわば“Officeレガシー”。
IT部門には関係ないと切り捨てるのは簡単。
しかし、そこには現場のノウハウや最新データが満載である。
全社で活用できれば現場の生産性が飛躍的に向上する。
“Officeレガシー”を宝に変えた企業を追った。


(市嶋 洋平、小原 忍)

◆“Excel地獄”から脱却
◆現場にある即時情報
◆“野良”を手なずけろ


【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ7月1日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集1」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 国債取引において課税と非課税を逆に処理―─。ゆうちょ銀行が今年1月に犯してしまったミスだ。幸い、取引自体は正しい金額で処理していた。しかし顧客に送った取引残高報告書に記載する利子を、逆の処理をしたものとして印字してしまったのだ。

 原因は、Excelファイルの関数を間違えたこと。取引自体は基幹系システムで実行している。しかし報告書の作成は、基幹系からデータを引き出しExcelを使って行っていた。そのExcelでミスがあった。問題が根深いのは、実はそのミスは事前に確認されていたことだ。ゆうちょ銀が発見し、委託ベンダーに指摘して修正させていた。しかし、実作業の際に古いExcelファイルを使ってしまいトラブルにつながった()。

図●ゆうちょ銀行は今年1月に一部の利用者に送付した国債報告書で計算を間違った
図●ゆうちょ銀行は今年1月に一部の利用者に送付した国債報告書で計算を間違った
委託先がExcelファイルのバージョンを取り違え、利子の非課税と課税を逆にした関数計算が入り込んだのが原因。送付したうちの2割にあたる7779件で間違った。左はゆうちょ銀行が1月22日に発表したプレスリリース

膨張し続け限界に

 図の例は業務を委託したベンダーで起きたトラブルだ。しかし、どの企業でも起こり得る。多くのビジネスマンはExcelを中心に表計算ソフトを日常業務で活用しているからだ。まさに本誌2007年7月9日号の特集で指摘した“Excelレガシー”である。

 業務部門の担当者がExcelを使って自ら開発し、利用し続けてきた「業務ツール」。業務が非定型であったり対象ユーザーが少なかったりして、IT部門が構築するような「システム」にはなり得ない。それでも現場は自分たちの業務を少しでも効率化しようと、身近にあるExcelを活用した。

 しかし状況が変わりつつある。現場での活用が進み、一つのミスが業務に大きな影響を与えるようになった。なのに個人のローカルディスクにも部門サーバー内にもファイルのコピーがまん延して最新版がわからなくなっている。Excelのマクロで作った業務ツールは改良を重ねた結果、メンテナンスができなくなった。

 作成者が異動や退職などでいなくなると、事態はより悪化する。業務に不可欠なツールとなっているのに誰も手を出せない。ある製造業では、「Excelマクロで結果を出した後に電卓で検算したり、誤差を考慮に入れてさらに別のExcelで処理したりといったケースもある」(IT担当者)。マイクロソフトも、「扱うデータ量が個人でハンドリングできる限界を超えているケースもある」(インフォメーションワーカービジネス本部の米野宏明エグゼクティブプロダクトマネージャ)とみる。

レガシーはExcelだけじゃない

 同様な問題はExcelにとどまらない。Wordなどのワープロソフトの文書、PowerPointといったプレゼンテーションソフトのファイルもそうだ。ジャストシステム ビジネス戦略グループの松田潤 部長は、「多くの企業が、監督官庁からの通達などを社内にある膨大な文書やファイルに反映させるのに大変な労力を割いている」と証言する。

 例えば昨年施行された金融商品取引法では顧客への商品説明のルールが変わった。これに伴って営業部員が顧客に持参する資料の元データとなるWordやPowerPointのファイルに確実に反映させる必要が出てくる。そこでのミスが、業務停止命令につながる可能性だってある。

 EUC(エンドユーザーコンピューティング)の代名詞ともいえるノーツ/ドミノも“Officeレガシー”になっている。EUC先進企業で名高いコクヨでは、「3000を超えるノーツデータベース(DB)が作られた結果、自分が欲しい情報が見つけられないユーザーが出てきた」(コクヨビジネスサービス ITソリューション事業部Web化推進グループの土山宏邦グループリーダー)という。

 では、どうすればよいのか。IT部門からすれば「現場がやってきた問題だから、ぐちゃぐちゃになってから言われても困る」と反論したくなるかもしれない。しかし、“Officeレガシー”がなければ業務は回らない。そのままにしておけばCSR(企業の社会的責任)を全うできないかもしれない。

 ここで見方を変えてみたらどうだろうか。“Officeレガシー”には現場のノウハウやリアルタイムの生情報が満載だ。しかも、基幹系システムには取り込めていないものばかりである。“現場に眠る宝”と言ってもいい。長年かけて作り込んできた文書やファイル、ノーツDBの中には全社に横展開すべきものが必ずある。


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