システム・ダウンをゼロにする――。すべてのITプロフェッショナルの願いだが実現は難しい。コストや時間が限られている以上、すべてのシステムで100%の信頼性を追求するのは無理がある。ダウンを恐れず、システムごとの信頼性に差を付ける。先進企業は動き始めた。
(井上 英明)
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システム・ダウンをゼロにする──。すべてのITプロフェッショナルの願いだが実現は難しい。コストや時間が限られている以上、信頼性で妥協せずに済むシステムはほとんどないからだ。
確かに利用者はシステム・ダウンを嫌う。システムが社会・経済活動に果たす役割が広がるに伴って、信頼性への期待値は上昇する一方だ。
ノーダウンが社会システムの務めであることは否定しない。だが、すべてのシステムに「100%」を求めるのはいかがだろう。「大きな声では言えないが、予算の乏しい周辺システムにまでノーダウンを要求されても困る」。ある公共企業のシステム担当者はこぼす。
「全く止まってはならない重要システムが世の中にどれだけあるのか」。情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長(NTTデータ取締役)はあえて世に問う。「信頼性を高めるためにどこまでコストをかけるべきなのか、システムの種類や用途ごとにきちんと議論すべきだ」。
現実はどうか。これまで企業のシステム部門と利用部門の間で、システムの信頼性はほとんど議論されてこなかった。それどころか利用部門の声の大きさや業務イメージで、信頼性の設計値が決まることも珍しくなかった。
信頼性に関する議論をおろそかにしたまま、システム開発を続けるのはもう限界だ。コストや納期の制約のなか、本当の重要システムに必要な信頼性を確保するには、その他のシステムを犠牲にせざるを得ない。
今、システム部門に求められているのは、一部システムのダウンを許容してでも重要システムに注力するメリハリだろう。そのためには各システムが必要とする信頼性をぶれずに決める基準や、障害発生時の影響を最小限に抑え込む運用が欠かせない。利用部門への説明責任を果たすことも重要だ。システム・ダウンとの新しいつきあい方を探った。
はっきりしないとお手上げ
6年前の4月に起こったみずほ銀行の大規模システム障害。あの事件以降、「ダウンしないシステムはない」というITプロフェッショナルの“常識”は通用しなくなった。金融や運輸、通信といった社会システムのトラブルに対する世間の目は今でも厳しい。
「『システムは100%落ちない』という販売代理店の暗黙の期待に応えるのが我々の使命」。KDDI情報システム本部アプリケーションサービス1部の近藤秀城部長は気を引き締める。ほとんどのシステム担当者は、同様の心持ちで仕事に取り組んでいる。
だが、すべてが公共性の高い社会システムではないはずだ。
「システム障害で飛行機が遅延することのないよう投資と努力を続けてきた」。日本航空(JAL)の宮島理一郎ITサービス企画室マネジャーは力説する一方で口にする。「すべての社内システムに100%の信頼性を求めるのは過剰投資ではないか」。
楽天の早瀬千善システム構築・運用本部副本部長も同意見だ。6000台のサーバーを使い多様なインターネット・サービスを展開する同社だが、「信頼性の低下を許容できるサービスもある」とみる。
「掛けるコストと信頼性の関係を、以前は利用部門にきちんと説明してこなかった」。ミレア・グループの情報システム会社、東京海上日動システムズの島田洋之常務取締役は反省する。「掛けるコストでダウンする確率が変わることを説明するのも、システム部門の任務ではないか」。
実際には、信頼性に関する明確な数値目標を設定し、利用部門と合意した上で進むプロジェクトはそれほど多くない。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査でも、要求仕様書に信頼性に関する要件を記載するユーザー企業は49%にとどまった(図)。
図●システムの信頼性への取り組みは不十分 |
目標が不明確だから自信が持てない。同じ調査では、経営層の9割がシステムの信頼性に不安を感じている。その結果、「とにかくノーダウンで」といった現実離れした要求が出てくる。
目標を決めてメリハリを付ける
一つひとつのシステムが目指す信頼性を開発の初期段階で決め、利用部門にきちんと伝える。利用部門のシステム・ダウンに対する不安を払拭するには、こうした地道な努力を積み重ねるしかない。
信頼性の目標値が決まれば、限られた予算のなかでどのシステムに力を入れるべきかもおのずと見えてくる。信頼性を高めるためシステム基盤の整備に投資するのか、ダウンした後の復旧時間短縮に力を注ぐのか、メリハリのある対応が可能になる。
すでに一部の先進企業はシステム・ダウンを恐れず、業務の重要性に応じて信頼性にメリハリを付け始めた。
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