仮想化ソフトが脚光を浴びている。複数のIAサーバーを1台に統合すれば機器や運用管理の費用を抑えられると、ユーザー企業は期待する。だが、現実は甘くない。安易に導入するとかえってコスト高になるケースもあるし、障害発生時の対応はユーザーの自己責任になる。仮想化ソフトの現実を冷静に分析した。

(森側 真一)


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 1台のIAサーバー上に複数の疑似的なIAサーバー(仮想マシン)を作る仮想化ソフト。昨年から今年にかけ、本格的に導入する企業が増えている。

 パイオニアは今年2月、仮想化ソフト「Xen」を使って数十台のサーバーを数台に統合した。不動産業のアパマンショップが同じく2月から利用を始めた新基幹系システムは、仮想化ソフト「VMware」を使ってサーバー28台分をブレード・サーバー6台で動かす。宇部興産は昨年1月からVMwareの導入を本格化し、すでにサーバー200台を仮想マシンに移した。

 「開発・テスト環境から本番環境に適用領域が移った」と調査会社IDC Japanの入谷光浩ソフトウエアリサーチ・アナリストはみる。同社は、仮想化ソフトの国内市場は年率39.8%の成長を続け、2011年には310億円規模に達すると予測する。

現実は厳しい

 「サーバー資源の効率利用によるコスト削減」「運用管理にかかるコストの削減」――。仮想化ソフトの宣伝には必ずこうしたうたい文句が並ぶ。セキュア・プラットフォーム推進コンソーシアムが今年1月、ユーザー企業を対象に実施した調査でも、これら2項目が仮想化ソフトに対する期待の上位を占めた。

 だがいち早く仮想化ソフトに取り組んだユーザー企業は、これらの成果を労せず手にしたわけではない()。

図●仮想化ソフトに対する期待と現実
図●仮想化ソフトに対する期待と現実

 例えば、中堅機械メーカーの石垣。昨年2月、基幹のPDM(製品情報管理)システムのサーバー群をVMwareで集約したところ、突然システムが応答しなくなるトラブルに見舞われた。仮想マシンに割り当てるCPU数の設定を誤ったためだ。

 宇部興産は仮想マシン上でデータベース・ソフトなどを動かす際、ライセンス(課金)体系の解釈で悩まされた。販売会社に尋ねても明確な回答が得られず何度もやり取りする羽目になった。「ソフト会社がライセンス体系を明示してくれないと、ユーザーは仮想化ソフトを安心して使えない」。情報システム子会社、宇部情報システムの山口亮介主任は憤る。

 「甘い考えは失敗のもとだ」。パイオニア経営戦略部情報戦略グループの中村正彦副参事は警告を発する。仮想化ソフトの性能を検証する過程で思ったほどのディスク入出力(I/O)性能が得られず設計を見直した経験に基づく発言だ。

 ユーザー企業やシステム・インテグレーターの意見を総合すると仮想化ソフトの導入を成功させるには、いくつかの注意すべき点がある。(1)サーバーを集約する効果はあるのか、(2)ソフトは正常に動作するのか、(3)信頼性は確保できるのか、の3つがカギとなる。

過剰な期待は禁物

 仮想化ソフトを使って複数台のサーバーを1台に集約すると本当にコストが下がるのか――。本誌の試算では必ずしもコスト削減につながるわけではないことがわかった。

 仮想化ソフトを使ってサーバー100台を集約するケースで、運用管理費や電気代を含む初年度のコストを大まかに試算すると、100台のサーバーを10台に集約した場合は3570万円。確かに24%の削減につながる。だが、100台を20台に集約しただけでは4940万円と、仮想化ソフトを使わない場合よりも5%高くなる。

 サーバーの台数が減るのにコストが増えるのは、2つの理由がある。1つは現在最もよく使われている仮想化ソフト「VMware」が必ずしも安くないこと。VMware上位版の販売価格は106万3000円(販売代理店ネットワールドにおける2CPUサーバー用の価格、初年度の標準保守費用を含む)。値引きを考えないと実サーバー20台分のライセンスだけで2000万円を超える。

 一方、サーバーは低価格化が進んでいる。日本IBMの「BladeCenter HS21 XM」(27万3000円)のように、30万円を切る低価格ブレードも珍しくない。

 サーバーがここまで安くなると、仮想化ソフトで台数を100台減らしても3000万円の節約にしかならず、全体としてはコストに削減につながらない。

 実際には運用管理費や電気代が減ることも加味しなければならないが、少なくとも「仮想化ソフトを使えば必ずコストを削減できる」と考えるのは早計といえる。仮想化ソフトの価格次第ではサーバーを追加購入したほうが安くつくケースもある。

 ただし、仮想化ソフトの割高感は急速にぬぐい去られるだろう。マイクロソフトの「Hyper-V」や日本オラクルの「Oracle VM」など、低コストの仮想化ソフトが続々と登場するからだ。今夏から出荷が始まるHyper-Vは、次期サーバー用OS「Windows Server 2008」に数千円の費用追加で利用できる見通し。新製品なので安定性が確認されるのを待つ必要はあるが、仮想化ソフトの敷居は確実に下がる。

ストレージ代を見落とすな

 仮想化ソフトでサーバーを統合してもコストが下がらないもう1つの理由は、新たに外付けストレージの費用がかかることだ。仮想化ソフトの売り物の機能「ライブマイグレーション」を使うには、ストレージが必須になる。

 ライブマイグレーションとは、ある実マシンで動作中の仮想マシンを別の実マシンにそのまま移して動かす機能。システムを停止させずにハードを保守できるメリットが評価され、広く使われている。「VMotion」の名称で提供するVMwareの場合、「新規ユーザーの7割が利用する」(ネットワールド)という。

 ただしライブマイグレーションの利用には、複数の実マシンが外付けストレージを介して移動対象の仮想マシンのイメージ(動作するアプリケーションなどをまとめたデータ)を共有することが不可欠。しかも多くの実マシンを接続するので、ストレージには高い性能と信頼性が求められる。

 「実マシンが10台程度になれば、ミッドレンジ以上の外付けストレージが必要」とインテックの馬場昭宏技術コンサルタントは説明する。「ライブマイグレーションを利用するなら、外付けストレージ代として1000万円から2000万円は覚悟しておいたほうがよい」と続ける。


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