システム開発の上流と下流、およびスキルレベルによって、給与や労働環境、働く意欲の格差が大きい――。ITエンジニア3万人から得た調査データからこんな結果が浮き彫りになった。赤字プロジェクトや納期に無理があるプロジェクトが、やりがいをそぐことも分かった。

(井上 英明)


【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ11月26日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集2」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「コンサルタントとソフトウエア開発者の年収差はおよそ250万円」「やりがいは、スキルレベルの低い人が高い人より30ポイント以上落ちる」「上司が部下のスキルアップに熱心だと感じる人の8割がやりがいを持っている」――。IT人材のスキルや労働実態を研究する任意団体「ITスキル研究フォーラム(iSRF)」が今年、IT人材3万人から得た調査データからこうした実態が浮かび上がってきた。

 iSRFでは、昨年9月から今年8月にかけて、企業単位にスキル診断を実施し、参加した2万7891人からデータを得た。加えて、今年6月から7月までWebサイト上でスキル診断と労働環境に関する意識調査を実施。スキル診断には3443人が参加し、うち2218人が意識調査に回答。本誌では、これらの合計3万1334人のデータを基に、IT人材のスキルと労働環境の実態を分析した。

スキル平均値が低かった運用管理

 まずスキル調査の結果から見ていこう。経済産業省が策定したITSS(ITスキル標準)を基に、レベル0(未経験)からレベル7(最上級)の8段階に分けたスキルレベルで調査した。その結果、システム開発に関する各職種の平均値は「コンサルタント」が3.5、「プロジェクトマネジメント」が同じく3.5と最も高く、次いで、企業のシステム全体の設計を担う「ITアーキテクト」の3.2だった。

 これら3つの職種のIT人材の平均像は“中級者”といえる。ITSSでは、レベル3~4の人材を「ミドルレベル(自らスキルを駆使して課題を発見・解決できる)」と定義しており、これに相当する。一方、スキルレベルの平均値が低かったのは「オペレーション」の2.0。オペレーションは、運用管理に関する実務作業者を想定している。

 これに次いで低かったのが、運用管理の設計や企画を担う人材である「ITサービスマネジメント」の2.2だった。全体のスキルレベルの平均は2.9であり、これを0.7ポイントも下回った。ITSSでいう「エントリレベル」(上位レベルの指導の下で職務の課題を発見・解決する人)よりも、若干上に当たるレベルである。なお本調査では、ITSSにはないレベル0(未経験レベル)をエントリレベルに含めて集計・分析している。

 各職種におけるスキルレベルごとの年収を分析すると、職種によって大きな開きがある。おおまかにいえば、システム開発の上流工程を受け持つ人材では年収が高く、プログラム開発など下流工程を受け持つ人材は年収が低い()。

表●職種別、スキルレベル別の平均年収と平均年齢
表●職種別、スキルレベル別の平均年収と平均年齢
 [画像のクリックで拡大表示]

 システム開発に関する人材で見れば、経営戦略やIT戦略を助言するコンサルタントの年収が最も高い。ハイレベル(社内外でビジネスをリードできる)に入るレベル5では平均年収が919万円(44.2歳)、ミドルレベルのレベル3でも697万円(38.7歳)である。

 次いで、プロジェクトマネジメントのレベル5は888万円(43.6歳)、ITアーキテクトが860万円(41.9歳)と年収の高いグループに入っている。ITサービスマネジメントも、回答者が全体の0.1%未満のため参考値だが871万円(43.0歳)と高い。

 これに対し、個別のアプリケーションを開発するSEに相当する「アプリケーションスペシャリスト」や、ソフト開発を担当する「ソフトウエアデベロップメント」の年収は低い。

 アプリケーションスペシャリストのレベル5は平均年収が658万円(39.8歳)、ソフトウエアデベロップメントはほぼ同じ659万円(39.0歳)だ。コンサルタントと比べて250万円超の開きがある。レベル3でも同様の開きが出ている。

上流ほどやりがいを感じている

 今回の調査ではスキル診断に加えて、「働きやすさと働きがいに関する意識調査」を実施した。65項目の質問に答えてもらった。

 まず、仕事のやりがいについては、回答者全体の半数強が、やりがいを感じている、という結果が出た。「今の仕事にやりがいを感じているか」という問いに対し、「感じている」と「どちらかといえば感じている」という回答の合計が56.4%だった。

 ただ、スキルレベルによって、やりがいに大きな開きがある。スキルレベル5以上は75%以上、つまり4人に3人がやりがいを感じている(ただしレベル6と7は参考値)。これに対し、レベル3では58.4%、レベル1では43.2%と、スキルレベルが下がるとともに、やりがいの意識は低くなっている。エントリレベルとハイレベルとでは30ポイント以上の差がある。


続きは日経コンピュータ11月26日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。