100億円投じてフルバンクのシステムを構築し、住友信託銀行と新銀行を開業したSBIホールディングス。30億円で東京都民銀行の「支店」システムを完成させた楽天。ジャパンネット銀行とシステムをつなぎ、決済の利便性を高めたヤフー。ネット3社の「銀行」のつくり方を比べる。

(大和田 尚孝)


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 口座数150万以上とネット証券最大手のSBIイー・トレード証券。ECサイト最大の3800万人の会員を抱える「楽天市場」。ID数が約650万と競売サイトでダントツの「Yahoo !オークション」。それぞれ業界トップの顧客数を誇るネット事業をグループ内に持つSBIホールディングス、楽天、ヤフーの3社が、相次いで銀行サービスの提供を始めた。ショッピングやオークション、証券取引など、自社サイトで金銭のやり取りを伴うサービスの利便性を高め、顧客を囲い込むのが狙いだ。

 異業種が銀行業に参入するには、高いハードルが2つある。1つは勘定系システムに代表される大規模なシステムを用意しなければならないこと。もう1つは、銀行免許が必要なことである。銀行サービスを取り込むために、3社が採った戦略を詳しく見ていこう()。

表●SBIホールディングス、楽天、ヤフーの銀行提携方式と提供サービス、システムの比較
表●IT法務リスク軽減に向けて動き出したユーザー企業の例
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SBIホールディングス
IBM製パッケージ使い「フルバンク」構築に挑む

 「銀行として勝ち残るには、融資と運用の業務が不可欠。そのためのフルバンキング・システムだ」。9月24日に開業した住信SBIネット銀行の木村紀義 常務取締役CTO(最高技術責任者)は胸を張る。

 SBIホールディングスと住友信託銀行が共同出資で設立した同行は、銀行運営に必要なすべてのシステムを新規に構築した。特徴は、SOA(サービス指向アーキテクチャ)の概念に基づき、システム全体を設計したこと。預金や融資などのシステムを「サービス」と見立て、サービス単位にシステムを構築している。システム間の通信手段は、日本IBMの非同期連携基盤「WebSphereMQ」に統一した。「将来のサービス追加を見越して、システム全体の柔軟性と拡張性を確保するのが狙いだ」(小川隆司システム第1部長)。

 個々のサービスの実装には、Javaなど標準技術に基づくオープン系のパッケージ製品、もしくはオープン技術による個別開発を選んだ。各システムは、日本IBM製ソフト「WebSphere MessageBroker」などを使って同社が構築したEAIシステムを介してつないでいる。このEAIシステムが、SOAの概念における「ESB(エンタープライズ・サービス・バス)」の役割を果たす。

第1号ユーザーとなる覚悟を決める

 木村CTOは「システム構成が決まるまでには曲折があった」と明かす。

 最大の苦労は、日本IBMが担当した勘定系の部分である。住信SBIネット銀は、J2EEに準拠した日本IBM製のオープン勘定系システム「NEFSS」を採用した。NEFSSは中核部分に「Corebank」という海外製パッケージを使っている。日本IBMがCorebankを国内向けにカスタマイズした。NEFSS/Corebankは、住信SBIが稼働第1号。選定時点で、稼働実績はなかった。

 SBIと住友信託銀行がネット銀行の設立を発表したのが、2005年10月。当時、オープン勘定系で稼働実績があったのは、NECの「BankingWeb21」と印i-flexソリューションズの「FLEXCUBE」だけ。06年1月に日本ユニシスの「BANKSTAR」が初めて稼動を迎えるという時期だった。住信SBIネット銀の主な機能要件は、フルバンクの機能を保有していることと、外貨預金など多通貨に標準対応していること。技術面では、使い慣れたUNIXで動作する製品にするという要件があった。

 前述のオープン勘定系で、「これらをすべて満たすものはなかった」(木村CTO)。そこで浮上したのが、日本IBMが開発中のNEFSS/Corebankである。未完成というリスクはあったが、データ構造が従来の「口座」を主キーとするのではなく、「顧客」を中心としているのが魅力的だった。「名寄せ」が容易であり、自社の商品口座とSBIイー・トレード証券口座など社外の商品/サービスを一括管理しやすいからだ。

 SBIホールディングスの北尾吉孝代表取締役執行役員CEO(最高経営責任者)から、「時間がかかってもいいから、いいものを作れと指示があった」(木村CTO)こともあり、金融システムの開発実績が豊富なIBM製品の採用に踏み切った。06年春のことだ。


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