モバイル3社のメール基盤を比較した。目標は「落ちない」ことで共通するが、実装は三者三様だ。NTTドコモは、汎用品を採用せず自らソフトウエアを開発した。KDDIは、中核部に無停止型サーバーを導入している。ソフトバンクモバイルは、過去の経緯から国際規格の準拠品を採用しつつ、国内向けに独自拡張した。

(菊池 隆裕)


本記事は日経コンピュータ10月1日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 とにかく信頼性が高いこと。24時間365日止めずに動かし続けることが必須――。

 消費者の生活に深く浸透している携帯電話の電子メール。大地震などの被害が相次ぐ日本においては、災害時における緊急連絡網としての期待も一段と高まっている。その基盤に求められるのは、各社共通する。どれだけ多くの通信が短時間に集中したとしても安定的に動き続けるという、極めて高い可用性だ。

 現在、国内の携帯電話事業者の大手3社が導入しているメール基盤は、2003年~ 2004年に相次いで導入されたものである()。いずれも、モバイル・インターネットのユーザー数が急増した2000年ころに続発したシステム・トラブルを受け、検討が始まった。サービスの中断や停止が社会問題化したこともあり、いずれも旧システムを全面的に見直したのが現行システムだ。

図●モバイル3 社の基盤の比較
図●モバイル3 社の基盤の比較  [画像のクリックで拡大表示]

 目的は高い可用性で共通するものの、3社が選んだ方式は全く異なっている。これは、各社のシステムに対する考え方や経営事情などが反映した。

NTTドコモ
「ブラックボックス」嫌う 心臓部は自社開発

 1秒当たりの処理件数は平均で毎秒5200件、最大では7万5000件――。ギネスブックにも登録されたほど大規模なNTTドコモの「iモード」のメール・サービスを支えるのが、「CiRCUS」と呼ぶ基盤システムである。各種サーバーやネットワーク機器など、基本的にはインターネット接続事業者と同じような構成を採っている。サーバーはUNIXが中心。2006年10月末時点のサーバー台数はCiRCUS全体で986台だが、このうちUNIXサーバーは934台を占める。それ以外はWindows NTである。ネットワーク機器も、インターネット接続事業者に多くの実績がある米シスコや米ファウンドリーネットワークスの製品を採用する。

 ただし、ほとんどのインターネット接続事業者の設備と大きく異なるのが、自社開発のソフトウエアを中核に据えていることだ。監視用ソフトウエアなどには汎用製品を採用しているものの、メールボックスやマルチスレッド制御ミドルウエア、Webサーバーなど中核部のソフトウエアは、同社がNTTデータやNECの協力を得て自ら開発した。これは「技術の“ブラックボックス”を嫌う」(同社と取引がある大手ベンダー担当者)という、同社の基本的な考えを反映したものだ。

 心臓部のソフトウエアに汎用品を避けているのは、同社の過去の経験に基づく。CiRCUSを検討していた2000年当時、同社のiモードのユーザー数は1000万を超え、ベンダーが「世界で初めて経験するものだ」と口をそろえるトラブルに次々に見舞われた。

 これは、製品に内在する潜在的なバグが原因だった。通信が短時間に集中発生した場合に初めて顕在化する。もちろん、ベンダーもそのつど対処したのだが、時間もかかるしコストもかさんでしまう。そこで、毎秒数万件を処理するメールボックスや、数千件の並列処理を可能にする通信制御ミドルウエアについては自分たちで作ることに決めた。

 同社が信頼性を測る指標としているのが、サービスの中断時間である。同社によると、ここ数年の中断時間は2004年が7.3秒、2005年が6.9秒、2006年は3秒を切ったという。2006年の実績を基に計算すると、可用性は99.99999%ということになる。これは、「一般的なミッションクリティカルなシステムの100倍の信頼性がある」(同社)とする。


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